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真実
タバコの先が赤く灯る。私はそれを凝視する。
灰の中に燻る火が、まるで血が固まり始めた黒点のような小さな点を所々露わにしては隠れ、その緋い臓器はまばらでズタボロの衣を纏ったかと思うと瞬時に活動を鎮静していき、ただの灰だけが残る。
灰の形の均衡が徐々に崩れて音もなく落下する。
白い巻紙なんかで装飾してその醜悪な中身を隠しているんだ。
そう思った私は共感の感情が芽生え、タバコを思いきり喫んでやった。
あの馴染みのシミは女性のあの丸い顔を形作っている。
両方の目のあたりから濃淡が下へと伸びて、雨が漏れたような痕が涙の様相を透かしている。
元々の壁の模様か、私の投影癖か分からなかった。
いやそんなことはどうでもよかった。
あの感触には、強烈な生が、確かにあった。
魔物が苦痛に歪む表情。
甘い匂いに含んだ鉄の苦み。
拳に伝う、骨と骨がぶつかる電気のような衝撃。
魔物の腹が固い皮膚の弾力でもって反発するも、無遠慮に肉体の内へ沈んでいく感覚。
何にも傷つけられていないにも関わらず、健常な私の内部までもよじれるような痛みが這いずり、無傷の頬は鉄棒で殴打されたような激震に揺れる。
そこにいるのか?
混沌とした律動の意識で私の内部のどこかに存在する煩わしい私の心を探す。
どれだけ必死に探っても煙を掴むようなくすぐったい気配だけが残る。
しかし気配があるという手がかりは私が平常であることを認識するには十分で、束の間に安堵し、優越できた。
魔物がもたらす束の間の痛みは、私のうわ言のような心を心たらしめてくれた。
だが、しばらくするとそんな気配もすっかり隠れて消えてしまうのだ。
私はまるで解剖医のように検分を始める。
五臓六腑の裏側をめくって覗いてみるも、
血液の元気な働きと、骨がしっかりとした頑丈さを誇って守っているだけだ。
ああ、私を覆っている一切の装飾を剥いだら何が残るだろう?
そうだ。この部屋から出てから、次々と迫る魔物を銀色の剣で倒してそれから賛辞の雨と、花火が待っているに違いない。
タバコの痛みはもう慣れた。
まだ消散してない煙を体に纏って、椅子から立ち上がる。
煙の中から見た私の四方を囲む壁紙は、本来の純白を取り戻していた。
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