白い息の向こう側

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「お姉さん。名前、なんていうの?」 「私? 伊東 道代よ」 「ふーん。僕は佐久間 凉っていうの。涼しいっていう漢字」  あら、普通の名前。私はよく昔の名前みたいとは言われるけど、そんなこと知ったこっちゃないわよ。私の名前に文句つけんな。  文句とは限らないけど。ただの感想だと思っておく。 「まあいいや。じゃあ送ってくれる?」  お? 素直に諦めた。他人ひとんちに行きたいなんてそれ口説き文句ですからね。そういやこの子、お姉ちゃんじゃなくお姉さんで呼んでるわね。  ちょっとませてるんじゃないの。 「君、いくつ?」  沈黙しっぱなしというのもなんだから、歩きながら質問した。 「十歳。お姉さんは?」 「私はいいのよ」 「何がいいのかわかんないんだけど」  少年はそう言った私の手を握る。ちょっとびっくりした。
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