4、負ければ天国、勝てば地獄。間が一番ちょうどいい

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 白い着物を着た人間達の列が途切れたかと思うと閻魔大王は、また息こらえをしていた。息こらえはブームだと思っていたが、死後の行き先が決まる切実な問題だった。わたしも一緒になって息をこらえていると、黒猫がひつじ雲に乗ってわたしに近づいた。 「ペットボトルくんは、なんで息こらえを閻魔様と一緒にするのですか?」 その質問にわたしは、ぷはぁ、と息を吐いた。 「え? 二酸化炭素をたくさん出してしまうと地獄行きなんでしょう? そうと聞いたら、息こらえで勝ちたくはないけど、負けられないじゃないですか。なるべく排気量を減らしておかないと、地獄行きになってしまう。きっと、こんにゃくの神はこれを知っていたから無駄口は叩かなかったんだ…恐ろしい…」 それを聞いた黒猫はどこからか台本を取り出してページをめくり始めた。動きに合わせてカサ、カサ、カサと音がする。 「閻魔大王様みたいに息をこらえすぎて、全身、真っ赤にならないように気をつけてくださいね…って、ペットボトルくんは当てはまりませんね。500mlの空気を体に入れても、出しても同じ空気ですから、生涯排気量は0ですよ。息こらえに勝っても負けても関係ないんです」 わたしはその言葉に耳を疑った。 「え?」 黒猫はめんどくさそうに、黄緑の眼球でわたしを見た。 「だから、その、戦いに参加しなくても、君は最初から、負けられない、ようになっています」 わたしは目が点になった。目なんてないんだけれども。 「じゃあ、わたしの息こらえは一体…?」 黒猫は台本をパタンと閉じて言った。 「負ければ天国、勝てば地獄。排気量の比べっこは、間が一番ちょうどいいって九十九神達、みんなに言ってあげればいいんじゃないですか? 君はどれだけ話しても排気量0なんだから。どうしても息こらえがしたいのなら趣味にすればいい」 「わたし、みんなに教えてきます! いっぱい、喋って教えてきます!」  わたしの頭の中に、真っ赤な顔をして息をこらえている消しゴムの神の姿が浮かんだ。  体を空っぽ野郎とバカにしていたが、この体である事で、すでに消しゴムの神には勝っていたようなものだった。ほくそ笑みを浮かべて、足元のひつじ雲を九十九神達が息こらえをしている場所に向けた。  空を下ると消しゴムの神が、また真っ赤な顔をして息こらえをしていた。 「おーいっ! 消しゴムの神っ!」 わたしは九十九神たちに上空での出来事を話した。こんにゃくの神はぷるぷると震えて、私も出世したかった、と項垂れた。消しゴムの神はわたしをキッと白い顔で睨んだ。 「お前が出世したら、息こらえ勝負を誰としたら良いんだっ! お、前、の事、良いライバルだと思って、いた、のに、この、頭も空っぽ野郎のバカ野郎っ!」  さっき言われた、バカ野郎、よりも遥かに嬉しい、バカ野郎、に思わず顔がにやけそうになった。まぁ、にやけたところで空っぽなので、誰にも顔色の変化は伝わらないのだけれど。
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