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32世紀。
地上から2000〜7000m程、離れた空中。
朧雲、まだら雲、ひつじ雲、むら雲に乗った、種々の神さま達が真っ赤な顔で頬を膨らましている。無論、わたしもその中の1人なのだが、如何せん、そろそろ酸素が欲しい。欲しいが今、息を吸ってしまうと右隣のうろこ雲に乗った消しゴムの神に負けてしまう。それだけは避けたい。あいつはいつも、わたしに向かって消しゴムの切れ端を投げて、やいペットボトルの空っぽ野郎、とバカにする。今度はわたしが、あいつに一泡吹かせてやりたい。
「…………ブハァ、はぁ、はぁ、はぁ」
消しゴムの神は真っ赤なゴムの顔を、青くしたかと思うと一瞬、泡を吹きそうになって、口を開けた。
本当に泡を吹いたら、いくら神とは言え死んでしまう。
わたし達は所詮、九十九神なのだ。そして神として名前通りの姿を保っている。
人間達は、神は死なないと勘違いしているが、神にも命はある。なんせ、こんなに物が溢れている地球上で九十九神になりたい輩は捨てるほどいる。捨てられたから神になったわけだけれども。
わたしも、やっとこさ800年待って、ペットボトルの神の座を手に入れた。選ばれし者だ。そして、ペットボトル界のトップアスリートでもある。
「はっはっはっ、残念だったな、消しゴムよ。今日はわたしの勝ちだ。完全には勝ってはいないがな」
鼻高々にわたしは笑い、勢い余って、自分の息こらえを中断してしまった。消しゴムの神には勝ったが、他の神はまだ息こらえを続行している。他の神には負けたかもしれないが、別にこの勝負は勝たなくても良い。勝ったら死んでしまって、トップ交代となってしまう。
左隣を見ると、こんにゃくの神が灰色の顔をして口も目も閉じている。時々、この神に呼吸などは必要ではないのかと疑ってしまうが、彼もちゃんとこの「息こらえブーム」に参加している。限界が近いのか僅かに震え出して、体がぷるぷるとしている。
「クソっ、次は負けないぞ。勝ちたくもないけど」
消しゴムの神がそう言ったのを合図に、各雲の上でぷはぁ、ぷはぁ、ブブっ、とこらえきれない息の音が、九十九神達の口から上がった。
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