2、出世

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 わたしがペットボトルの九十九神として、この上空の雲の世界にやって来た時から、神々達の「息こらえブーム」は挨拶かのように定着していた。  新参者だったわたしがハキハキと、 「これからお世話になりますっ! 800年待ってやっとこの場所に辿り着くことができましたっ! 不慣れなーーー」 今時の新入社員にも珍しい熱意を持って、唾を飛ばしながら息巻いていると、朧雲(おぼろぐも)に乗ったこんにゃくの神に、言葉を遮られてしまった。 「そんなに、酸素を消費してはいけない。後悔するぞ」  灰色の顔で圧を掛けられたものだから、思わずキュッと口を閉じて、息をこらえてしまった。  今思えば親切な先輩だと思うが、この否応無しに強要されている「息こらえブーム」の意味は、上空に来て3年経った今も分からないでいる。もう、ブームのような一時的なものではなく習慣化しているためブームでは無い、ともツッコミにくい雰囲気さえある。こんにゃくの神だけは何かを知っているようだったけれど、彼は必要以上に会話をしたり、呼吸する事を嫌っていたため、聞けずにいた。 「ペットボトルくんっ! ペットボトルくんっ! おい、そこのカツラの神、ペットボトルの神はいないか?」  わたしの頭上200mの場所で甲高いキンキンとする声が聞こえて、空を見上げた。こんにゃくの神の顔にも負けないほどの灰色を持つ、くもり雲に乗った、三毛猫がわたしを探していた。 「ここっ! ここっ! ここにいます!」 わたしが声を張り上げると、三毛猫は鼻をヒクつかせてわたしを見た。しかし、視線が合わない。 「どこにペットボトルくんが居る? 緑のキャップは見えるが姿が見えない」 「ペットボトルの空っぽ野郎は、そのひつじ雲の上にいます。透明で空っぽだから、見えないでしょうけど、その緑のキャップはそいつの頭です」 またわたしの事をバカにした、と消しゴムの神を見て、声をあげた。 「ネコさん、わたしはここですっ!」 三毛猫はわたしの頭のキャップを見て、にゃ〜、と鳴いた。   「見えないけど、ペットボトルくんはそこに居るんだね。急な話だけれど、君は今日から出世だよ」 「出世!?」 三毛猫の言葉にわたしより早くこんにゃくの神が反応して声をあげた。無駄な会話をしない彼が、勢いよく出した声を初めて聞いたので、わたしは飛び上がってしまった。 「そう、出世。閻魔大王様の補佐に出世だよ〜。今から関所に案内するからちゃんとついて来てね。僕には緑しか見えないから、しっかりね〜」 三毛猫はそう言って背を向けた。わたしが彼に言われるがまま付いて行こうとするとこんにゃくの神が声をあげた。 「ど、どうして、ペットボトルの神なのですか?私は出世できないのですか?」 三毛猫はこんにゃくの神に振り返って言った。 「うーん。こんにゃくくんも候補にあったんだ。顔色が分からない補佐が欲しかったから。だけど、体?頭?ぷるんぷるんってしてるから、閻魔大王様が引いちゃって。ごめんね。独断と偏見ってヤツだね」 それを聞いたこんにゃくの神は、いつも以上に灰色になってぷるぷると震えていた。
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