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青年が村を出てしばらくしてから、僕は久しぶりに向日葵の咲き誇る広場に向かった。
夏も終わりに差し掛かり、木々の間に落ちている蝉の死骸を見る機会も増えて少し気分が落ちてしまう。
もう向日葵は茶色くなっているかもしれない。僕は荒い息を吐き出しつつ、山道を登っていく。
その場所にたどり着くなり、僕は愕然としてその場に膝をついた。
向日葵が茶色ではなく、黒くなって地面に倒れていたのだ。周囲には焼け焦げた匂いが漂い、焼き払われたのだと瞬時に理解できた。
無残な姿をした向日葵を前にして、僕は混乱と、憤りと、悲しみと……綯い交ぜになった感情が胸を占めていく。
震える足を奮い立たせ、僕はゆっくりとその残骸に近づいた。そこで何か光る物が目に留まる。
しゃがみ込んで拾った僕は、ワーッと叫んだ。
涙が止めどなく溢れだし、脇目も振らずにその場で泣き崩れる。
紛れもなく、僕のあげたキーホルダーだった。焼け焦げていても、猫の形とチェーンの部分から一目で分かった。
近くには不自然な土が盛られた形跡が残され、きっとそこに青年が埋められているのだろうと悟る。
オカシイと感じたのは、ここに向かおうとした時――
祖父が何故か、僕を引き留めたのだ。いつになく厳しい表情の祖父に、僕は訝しく思った。けれども、どうしても向日葵を見ておきたくて、行かないと嘘を吐いてまでしてこの場所に来ていた。
僕は盛られている土の前でしゃがみ込むと、焼けて少し溶けているキーホルダーを供えるようにして置く。
この場所に連れて来た後悔。唯一の親友を亡くした悲しみ。
僕は懺悔の言葉と涙を零し続けることしかできなかった。
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