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花というものは様々な色彩を持っている、という事を祖父が絶対に秘密だと言って教えてくれたのは中学一年生の夏の事だ。
「綺麗だった」と遠い目で呟いた祖父の言葉の意味を、灰色一色の花しか見たことのない僕には、理解しがたい事の一つだった。
そんな僕は夏休みに入っても遊ぶ友達の少なく、お気に入りの場所である山奥の開けた場所によく足を運んでいた。
そこは木々が周りを囲むようにして丸く開けていて、その中心に咲き誇っている向日葵たちが、灰色の大きな花弁と葉を太陽に向けて広げていた。
祖父の話が本当ならば、この向日葵も灰色ではなく、他の色だったのかもしれない。
そのせいなのか、目の前で揺れている向日葵の群れは、とてもじゃないが綺麗とは言い難かった。
それでも僕は、この景色が好きだった。
風で左右に揺れている姿がまるで、メトロノームのようで僕の心を落ち着かせてくれるからだ。
ざわざわと花と葉がこすれ合う音が聞こえ、僕は静かに耳を澄ませる。
この向日葵たちは元々は一本しかなかったのだけど、僕が小学校の頃に授業で育てていた向日葵を持ってきて植えたら、いつの間にか増えてしまっていた。今のところ村で騒ぎになっていないところを見ると、バレてはいないようだ。
夏休みの間、僕は頻繁にその場所を訪れては灰色の向日葵畑を見に行った。
する事がなかったという事もあるけれど、実は他にも理由がある。
僕の住んでいる村に一人の青年が、つい最近移住してきたのだ。こんな辺鄙で閉鎖的な村に何故なのかと、村の人たちは酷く警戒していた。
その青年は二十代後半ぐらいの優しげな雰囲気が漂う男で、僕の家の近所に引っ越してきたのだ。きちんと挨拶にも来ていたし、僕も何度か顔を合わせる度に二言三言挨拶を交わしあっていた。
そんなある日、青年が村を案内してほしいと僕に言ってきた。
この村の人たちは、余所者とは口を聞いてくれないようで、唯一僕だけが青年と口を聞いてくれたからと青年は照れ臭そうに言ってはにかんでいた。
確かにこの村の住人はどこか冷めている。それに僕も、学校では数少ない同級生たちと上手くなじめていない事もあって、青年の気持ちが痛いほど理解できる。
そのこともあって僕は、村人があまり近寄らない場所を中心に案内するようになった。
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