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僕と青年がいるところを村人に見られて、それが祖父に伝わって咎められたこともある。それでもその頃にはすっかり青年と仲良くなっていて、同じ孤独を抱えた者同士、離れがたいものがあった。
だから僕はとっておきの場所だと言って、青年をあの向日葵の咲き誇る広場に案内した。
青年は凄く驚いて「凄い。本当に灰色だ」と言うなり、珍しい物を見るようにまじまじと見つめていた。
僕はその言動に酷く狼狽えた。
「花って、灰色をしているんじゃないの?」
僕の言葉に青年はハッとした顔をしたのち、眉を寄せた。
「そうか……君は何も知らないのか」
哀れんだ瞳で見つめられ、僕は恥ずかしさから視線を背けた。そんな僕に青年は、この村に来た本当の理由を教えてくれた。
青年はこの村で育った花は灰色をしているという事実を確かめるべく、移住してきたとの事だった。
とある研究機関に勤めていて、この花を持ち帰ればこの村でどうして灰色の花が咲くのか解明できるのかもしれないと、話して聞かせてくれたのだ。
祖父の話が本当だと分かったこともあって、僕は青年の仕事を手伝うことにした。
それからは、ほぼ毎日のように青年を連れて僕はこの場所に足を向けた。
青年は土の成分を調べたり、この周辺に生息する生物の調査をしていて、僕には少し難しかった。
それでも役に立ちたいと、自分の分かることは何でも答えた。
夏休みも終わりに近づいたある日。青年はとうとう、村を出ることを僕に告げてきた。一定の調査を終えたから、今度は研究施設で詳しいことを調べるらしい。
「またここに戻ってきたら、お礼に本当の色をした向日葵を見せてあげるね」
数本の向日葵を渡した僕に、青年はそう言って嬉しそうに笑った。
寂しさもある。でも青年はまた会おうと言ってくれたし、本当の色をした向日葵を見る事が出来るかもしれない。だから僕も頷いて、笑顔で見送ったのだ。
青年はその日の夜すぐに出るということだったから、僕は餞別にと三毛猫のキーホルダーをあげることにした。
鞄につけていたのを見た青年が以前、「可愛いね」と言ってくれたことがあったし、ほかに何をあげたらいいのか思いつかなかったこともある。
青年は「絶対に戻ってくるから」と言って、そのキーホルダーを手のひらに包んでいた。
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