400万の瞳

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 ゴンタロウの到着を待ってから、ひとけのない多摩川の河川敷で、中をあらためてみたら、思ったとおり、ポスターサイズに大きく引き伸ばした顔写真が出てきた。  被写体は磯村樹の顔のドアップだ。  場所は学校の校庭で自撮りしたらしい。  もしこれを見たら、岩井は大いに戸惑ったろう。  ただの顔写真じゃない。両目に画鋲を刺したスナップ写真を撮影したものだ。本人が笑顔なのでさらに不気味さが三割増しだった。  「なんじゃこれ、悪趣味な写真」と、三田と笑っていたら、異変が起きた。  その写真の画像が、まばらに点滅を始めたのだ。  「この写真! まさか瞬きしてんの?」と、三田が素っ頓狂な声を上げたので、景子はミミズを思い出した。  苦手だが、あれは目がなくても体表に視細胞が散らばっているので、光の方向なら確認できるらしい。というのを昔、動物図鑑で読んだことがあるのだ。  ゴンタロウが冷静な声で、注意を促した。  「攻撃する機能はありませんが、気を付けてください、これは複眼式のカメラです。点滅してるのは自動で角度を変えながら、動画撮影してるんです」  「送り主のスマートホンに送信してるってわけね」と、景子。  三田だけが状況がわかってないらしく、ゴンタロウに質問した。  「ロボットなんですか、これ」  「ええ、監視用です」  これを聞いて三田は「ひえええ~!」と、ドン引きだ。  三田が「で、でも、目に画鋲が刺してあるんだよ」と、うろたえた声で景子に訊けば、彼女は「見た目に騙されんな、目に刺してある画鋲も本物ではなく写真の画像だよ、全体が目玉なんだ」と、答えた。  これを聞いたなり、三田から「うげ~!」と、カエルのような声が出た。  (顔全部が目玉だらけ)と、想像しただけで鳥肌ものだ。  ゴンタロウの解説は続く。  「写真を拡大すれば点の集まりです。三百万画素とか四百万画素とかいうじゃありませんか、その点のすべてが監視カメラなら、全身が昆虫みたいに複眼で……。あ! まって、それはわたしが! 手を怪我してしまいます!」  もう景子は聞いてなかった。あまりのおぞましさに「おりゃあああ!」と、正拳突きで写真に似せた監視ロボットを壊してしまった。  大穴を開けられたロボットは機能を停止、磯村のスマホに鬼女のような景子の表情がドアップで送信されただろうから怒りのメッセージとして伝わるだろう。
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