400万の瞳

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 景子がクラスメートの磯村樹(いそむらいつき)から、奇妙なストーカーの相談を受けたのは昼休みだった。  A3サイズの写真の化け物だという。  「差出人は不明で送られてきたんで小包を開けたら、窓から身を乗り出すように、ヌッと現れたの」というから、まるでホラーマンガみたいな話だ。  どこで盗撮されたかわからない磯村の顔の大写しで、駅のポスターとかによくあるイタズラのように、両目に画鋲を刺してある画像だらしい。  それが《愛してる!》とか《幸せにする》とか《大切にする》とか陳腐なセルフを、磯村と同じ声で呟きながら近づくというから気持ちが悪い。  悲鳴をあげると、空気の入れ替えに少しだけ開けていた窓の隙間から逃げだしたという。  あくまで二次元の画像が実体化したものだから厚みがない。  「だから隙間が怖くて、怖くて」と、磯村は身を震わせる。  景子にはそれがすぐロボットだとわかった。最近、何度か、そのタイプを目にしている。  そう返事をしたら、「マジ」と、磯村は目を丸くした。  「マジだよ、大マジ、どっかの展示会で観たから――」と、誤魔化し、「いくらストーカーでも磯村さんが好きなら、そんなキモいイタズラなんかしないんじゃないの?」と、感想を言えば、磯村も大きくうなずいた。  「きっと変態だよ! 変態! 怖がらせて喜んでるんだよ! 決まって部屋で一人でいるときにやってくるんだ! もう眠れないのね、ガムテープで隙間をふさいだって効果ないの、ペラペラのくせに、すぐ剥がしちゃうのよ」と磯村は嘆いた。  親に話しても『学校のカウンセラーのところへ通え』と言われるらしい。  「このままじゃ、ほんとうに病気になっちゃうよ!」  これを聞いて、景子は胸を叩いた。  「よっしゃ! わたしに相談したのは大正解だね、徹底的に成敗してやる!」  念のため、ゴンタロウをお供にして、磯村の部屋を徹底的に探らせてみたら、ドンピシャリだ。
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