二 その名は、雲へ揚がる鳥

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二 その名は、雲へ揚がる鳥

 土蔵の地下に隠された座敷牢。  蝋燭(ろうそく)で照らせば、暗闇に木格子(きごうし)が浮かびあがる。錠前はないが代わりに五寸釘が打ち込まれ、出入口は完全に固定されていた。  この家の長男だというのに、(あい)は存在さえ知らなかったのである。    内側の床は一応畳だが、毛羽立って湿っていた。油が乾いた行灯(あんどん)、ボロボロになった何冊かの本。視界に入る物はそのくらいで、布団も置かれていない。  そして── 「まじかよ……。お前、例の子供か?」  格子の奥には、子がひとり膝を抱えて座っていた。  阿比(あび)が療養していた山荘を何度か訪ねたことはあるが、成長した姿を見るのは初めてだ。 ──女……じゃねえよな。最後に会ったときはまだ赤ん坊だったが、跡取り候補なんだから男のはず。もう、六歳くらいか。  周囲が暗いせいで見間違えたのかと思ったが、目を凝らしてみてもやはり女児のように見える。幼いうちは性差が少ないとはいえ、あらかじめ知っていなければかなり迷っただろう。  髪は伸ばしっぱなしで人形のように線が細い、中性的な子供だった。
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