三人の僕

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 事が起きたのはほんの数分前。僕と母宛の封筒が郵便受けに入っていた。差出人はどちらも父からだ。僕が生まれてすぐに離婚し、養育費だけを振り込んでいた父親が今さら僕に何の用があるというのか。  母宛の封筒をダイニングテーブルに置いて自分の部屋に行く。中の手紙を破かないよう慎重に封を切ると、手紙の他に一枚の写真が入れられていた。 「え……」  写真を見て絶句した。海を背にした屈託のない笑顔――おそらく八歳の僕が写っている。僕は海に行ったことがない。でも、戦隊ヒーローみたいな赤い服と右膝の絆創膏……そこに写っているのは間違いなく僕だった。  慌てて母の部屋に行く。入るところを見られたら怒られるが、今は買い物に行ってるので物を動かさなければバレないはずだ。相変わらず不気味な部屋だと思いつつ、一つ一つ写真を見て最新の年齢を探す。  僕の記憶では『ゆうくん 八歳』と書かれた、八歳の頃に近所の公園で撮ったあの写真が一番新しい。急ぎつつもしっかり確認してみたが、やはりこれより最新の写真は存在していない。別人というにはあまりにも似すぎていると思う。両親は僕に隠し事をしているのではないか。  ギィギィギィ  両親に対して不信感を抱いていると、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。母が帰ってきたのだ。僕は音を立てないよう部屋を出て、ゆっくり扉を閉めてリビングへと向かった。 「ゆうくんいる? 帰ってきたわよー」 「おかえり」 「ただいまゆうくん!」 「うん」  いつもどおり、目を見つつ素っ気ない返事をする。いい加減『ゆうくん』は小学生みたいで恥ずかしいから止めてほしいが、何度言っても聞き入れてくれないのでもう諦めている。 「あら? これ……ゆうくーん!」 「何?」 「これ、読んだでしょ」 「読んでない。ていうか開けてないだろ」 「あ、ほんとだ。うんうん、糊が取れた形跡はないし、ゆうくんの言うこと信じるね」 「しっかりしてくれよ……」  母はよく僕を疑う。特に交友関係にはうるさい。最近は少なくなってきたが、ちょっと変わったことがあると今みたいに最初から決めつけて聞いてくるのだ。僕の言ってることが本当か確かめるために、友人や先生にまで電話をしたこともあった。おかげで学校では母がちょっとした有名人になっている。
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