三人の僕

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 下校時間になり、僕は田辺が言っていた大通りのコンビニに行った。僕と同じ顔をした人間に会えるとは思わなかったが、店員の一人が顔を覚えていた。その店員は新作のアイスの売れ行きを気にしており、最初に買っていった僕の顔をしっかり見たらしい。正確には僕じゃないが、そんなこと言って混乱させる気はないので「また買いに来ました」と言って例の新作アイスを買い、公園のベンチに座って一口かぶりついた。 「あっま」  バニラの甘ったるい味に顔を顰める。今まで食べたどのバニラより甘い。普通のバニラでも甘すぎて半分も食べれば胸が一杯になるのに、これは一口で充分すぎるほどだ。袋も毒々しいピンク色で、売れるかどうか気になってしまう。 「あれ、君……」 「ん?」  甘いアイスに苦戦していると、聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。どこで聞いたのだったかと振り返ると、僕とまったく同じ顔をした人間が立っていた。 「え、あれ……僕?」 「裕二だ!」 「は……」  僕と同じ顔と声を持った彼は破顔して隣りに座り、「ほんとに同じ顔だ!」だの「あ、でもよく見たらほくろの位置が違う」など、困惑する僕を尻目にまじまじと顔を観察してきた。 「え……と、君は、誰だ?」 「あれ? 父さんの手紙読んでないの?」 「あっ」  そうだ、手紙を読む前に写真を見て母の部屋に行き、それからはいつバレるかドキドキしながらゲームや勉強をして過ごしていたから手紙のことをすっかり忘れていた。 「忘れてた……」 「そそっかしいなぁ」 「う、うるさい。それより君は誰なんだ」 「裕一だよ。名前に『一』があるからたぶん兄だと思う。双子のね」  僕の予想は当たっていた。父は僕に双子の兄がいることを伝えたかったのだ。しかしなんで今さら……。 「たぶん、隠しておくのに疲れたんじゃないかな」 「何も言ってないぞ」 「言わなくてもわかるよ。双子だもん」  そういうものなのか。でも、僕には兄だという彼の考えがわからない。そもそも双子だからといって考えている内容まで同じだとは思わない。 「それより、アイスはどう? 甘くて美味しいでしょ」 「いや、僕は甘いの駄目なんだ」 「あ、やっぱりそうなんだ」 「やっぱりってなんだよ」 「父さんの弟……僕らからみたら叔父さんだね。その人も裕二みたいに甘いの苦手だったらしいよ」 「へぇ」 「たぶん手紙にそのことも書いてあるから帰ったら読んでみてよ。おっと、日が落ちてきたね。じゃあ僕はもう帰るよ。また後でね!」 「はあ?」  また後でとはどういう意味か聞く前に、裕一は公園の外まで走っていってしまった。  僕の兄だと名乗った彼は変な人間だ。いわゆる不思議ちゃんってやつだろう。できれば関わりたくない人種だが、この町に住んでいる以上またどこかで会う可能性が高い。もしかしたら今までも近くにいたり、すれ違ったりしていたのかもしれない。  ハァと重い溜息をついて夕日を背に帰宅する。今日は少し遅くなってしまったから母から何かしら小言を言われるだろう。
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