不透明少女

3/13
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
新幹線は今、滑らかな轟音を立てて大清水トンネルに入った。僕は人目をはばからず、アルバムの白いもやを指でなぞりながら、もう一度その名前を呼んでみた。 「ぼんやりちゃん……」 懐かしい響きだ。小学生に戻ったような。場面緘黙を患いクラスで浮いていた頃のような。苦くも伸びやかな心地。アルバム越し僕はその頃のことを思い出す。 ぼんやりちゃんと出会ったのは小学2年の8月半ば、暑い日の午後。プールから帰ってきた僕に、母は一枚の写真を見せてくれた。 「こうちゃんも良く日焼けしたね」 それは1学期の終業式後に撮った写真だった。僕は麦茶を片手に、その写真を母から受け取ってまじまじと見た。 まだほんの1か月前だが、プールによく行っていた僕の肌は夏休み前と違いトーストが焼けるように小麦色に変わっている。 この夏だけでも人生の半分々くらいは泳いだ。友達が一人もいなかった僕は、ただひたすら泳ぐことしかプールでの遊び方を知らなかった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!