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「エルダンか…。敢えてその名を選ぶとは、お前らしいような、ないような…」
お猪口に酒を注ぎつつ、カラドは物思いに言葉を漏らす。
何処か自嘲するような笑みを浮かべ、エルダンは彼に会釈をすると、綺麗な所作で仄かに甘い香りを放つ清酒を口にした。
「………、こうして、カラドさんと酒を飲み交わす日が来るとは思いませんでした」
そう零し、こちらもと酒瓶を手に取る。
カラドははにかみつつも彼から酒を注いで貰い、大層美味そうに愛用の年季の入った杯を煽った。
「お前さんが鳶となってから六年か…、早いものだな…」
「ええ。正直、あの頃はウィンフェールがここまでの規模になるとは思いませんでした。カラドさんが頭領になってくださったお陰ですね…」
「はっはっはっ、ウィンフェールは朱鷺殿の遺言みたいなものだからな。彼女に代わって、お前さんが背負って行けるようになるまでと思って引き受けたが…」
「今の規模じゃ俺には抱え切れませんよ…」
昔話を交えつつ談笑を続けながら、一杯、また一杯と酒を交わす。
その傍らでサハナはおかずに手を伸ばしつつ、そんな二人を見つめた。
酒を飲み交わす二人は、会いたくとも中々会うことの叶わなかった仲の良い父子そのものだった。
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