20人が本棚に入れています
本棚に追加
「ん?朱鷺殿?」
サハナと同じく二人の会話に耳を傾けていたミレイシャが、不意に声を漏らした。
その声に父カラドは酒を呷る手を止めた。
「ああ、お前も覚えているだろう?赤髪の朱鷺殿だよ。彼女の葬儀には一緒に出ただろう?」
父からの言葉に、ミレイシャは仰け反るばかりに驚愕した。
そして、ふとエルダンの顔を再度見て、何か思い出したのか唖然とばかりに口を押えた。
「嘘!じゃあ、あの時の…⁉」
「お前、今頃気付いたのか…」
「だ、だって!別人というか…!言われてみれば面影あるけど!」
慌てふためく娘に父は呆れ返った様子である。
どうやらこの二人、過去に面識があったらしい。
「まあ、あの頃とは似ても似つきませんからね…」
「ごめんなさい、私ったら…」
苦笑するエルダンに、ミレイシャは赤面した顔を隠すように頬を両手で覆う。
「全く、お前のお転婆は治りそうにないな…。いつになったら嫁に行ってくれることか…」
腕を組み、カラドは肩を落とす。
その一言にミレイシャは頬を赤くしたまま、それとこれとは別だと噛み付き、やんわりと親子喧嘩が勃発した。
「取り敢えず、家は出たじゃない…!」
「月一で戻って来る癖に良く言う。挙句、荷物も部屋にそのままだ」
「だって、今の部屋に入り切らないんだもの。それに戻って来る度、お金置いて行って…!」
「金の話じゃない。金銭的には自立したかも知れんが、精神的にだな…!」
「でも、一人暮らし始めたじゃない!」
「一人と言えるかね。ジャンソール殿のアトリエに間借りしているだけじゃないか…」
「先生のお世話も兼ねてるんですぅ!」
「多少の家事で威張るな…!」
「多少じゃないもん!料理もちゃんとやってるわ!父さんだって私の作るマプルパイ、大好きな癖に…!」
「ふん!母さんには劣るわ!」
「あ!言ったわね!父さんには、もう作ってやんない!」
そう言い放ったミレイシャは腕組して、ふんっとそっぽを向く。
すっかり拗ねてしまった彼女に、エルダンとサハナは苦笑い。
まあまあと宥める中、ふとサハナはあることに気付いた。
最初のコメントを投稿しよう!