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「あの…、今、ジャンソール殿とおっしゃいました?」
「ああ、西の大賢者のな…」
さらっとそう答えたカラドに、サハナの顔が俄かに引き攣る。
そうとすれば―――たった今、その西の大賢者ルディクレア・ジャンソールの事を、彼女は先生と言わなかったか―――…。
「ああ、そっか。サハナは寝てたから…。彼女、ジャンソール大賢者のお弟子さんなんだよ」
酒が回って来たのか、それとも暑さの所為か。
パタパタと手で顔を扇ぎつつ、エルダンが言葉を添える。
実父も大賢者であるが、師までも大賢者とは―――。
セビアスにとって、名のある魔術師に弟子入りすることは、それだけでも難関試験を突破したようなもの―――、かなりのステータスだ。
見かけのふんわりとした雰囲気からは想像出来ないが、彼女かなりのやり手らしい。
「親の身で言うのもなんだが、これは頭の出来は良くてな…。ただ、性格がこれなものだから就職がなぁ…。大学卒業までとうとう決まらず、見兼ねたジャンソール殿が拾ってくれた次第だ」
「ちょっと、父さん…!」
「事実だろうに…」
余計なことを喋るなと噛み付く娘に、カラドは溜息を零す。
歳が行ってから出来た末娘だけに甘やかし過ぎた所為だろう―――、朗らかというかちょっと抜けているワンパク娘に育ってしまったと彼は肩を落とした。
「同じ大学の先輩であるセルディン殿が、あぁも立派になられたというのに…。いつになったら、一人前になることか…」
手酌で酒を啜るカラドの更なる一言に、ミレイシャは更に剥れる。
そんな何処かお茶目な親子と共に食事と談話を進めつつ、その夜は虫達の囁きと共に更けて行った。
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