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「領主が代わって、ここも随分良くなったな…」
漸くやって来た馬車に乗り、エルダンは物思いに過行くエストキリスの町を眺める。
表向きは静謐として気品があるものの、一歩入った裏通りに貧困に喘ぐ浮浪者が溢れていた以前を知る彼にしてみれば、町は様変わりしていた。
彼が正義の鉄槌を下したことで以前の領主は失脚し、今は現ウィディス国王バルトが選出した若く聡明な新領主が町を治めている。
そのお陰か日陰に蹲る人影はなく、人々の顔に見え隠れしていた棘は無くなっていた。
「ほとぼりが冷めていて良かったな、鳶」
そんなカラドの一言に、ウッと彼は肩を竦める。
あの件は人助けの為とは言え、遣り過ぎだったことは否めない―――…。
金と権力に物を言わせ、エストキリス領地の婦女を弄んだ前領主を成敗するべく、領主の屋敷に不法侵入の上、監禁された被害者の脱出を促し、事を世に曝け出す為かなり派手に暴れて見せた――が、盛大に暴れ過ぎて、その件は世間の大ニュースになってしまった。
報道各社は挙って前領主の悪事と共にエルダンの活躍を書き立て、挙句、彼に助けられた被害者達が揃いも揃って、中には、頬を染めて彼の整った容姿を証言した為、彼は事件後【漆黒のイケメン義賊】などと持て囃された。
それ故、この街には暫く近づかないようにしていたのだった。
「あん時は、顔見られたのが痛かったなぁ…」
苦虫を嚙み潰したような顔で、いそいそと首に巻いたスカーフに顔を埋める。
眉目秀麗、スタイル抜群の彼の容姿は今の生活には、デメリットしかない。
救出された婦女達からすれば、白馬の王子様の様だったろうが、犯罪紛いの所業故、忘れて欲しい所であった。
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