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睡蓮咲き誇る優美な石堀を超え、忙しそうに行き交う人々に交じって重厚な城門を潜る。
正面玄関までのゆったりとした歩幅の大階段の両脇には、カスケードが設けられ、惜しげもなく水が流れ落ちていた。
ドルフィエルダ王家の紋章にも描かれる槍を手にした一対の人魚の像が睨みを利かせる中、玄関前に鎮座していた警備員に声を掛けると、検問無しで中に通してくれた。
巷の騒ぎを受け、並べく穏便にと国王の計らいだった。
通された待合室に着いてすぐ、予め連絡を受けていた国王の秘書が物静かに迎えてくれた。
予定では付き次第、国王バルトとの謁見し、ヴィラーディアンの動向を窺いながら船の手続きに入る筈であったが、何でも予期せぬ急用が入り、国王は執務室から出られないとのことだった。
「申し訳ございません。もう暫く掛かると思いますので、こちらでお待ちください」
上等な菓子と茶を用意し終えてすぐ、秘書は申し訳なさそうに言い残すと部下と共に急いで部屋を後にした。
何やら忙しそうなので、サハナは取り敢えず、渡された連絡船の手続き書類を書き、カラドもそれを手伝いながら茶を啜った。
「エルダンさんとの約束までに来ると良いですね…」
書類を書き終えて茶菓子を頂きつつ、尚も来る気配の無い国王を待つこと三十分―――。
初めはカラドとお喋りで暇を潰していたが、話のネタも尽き始め、日も傾き始めて焦りが募った。
エルダンと約束した六時半まであと一時間―――、あまり遅くなると彼に心配を掛けてしまう。
「そうだなぁ…」
時計を眺めつつ、カラドも焦りを見せ始める。
万一の時の連絡手段は無くも無いが、何かと追われている身の彼だ。
あまりアクションを起こしたくはない。
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