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第一話 真夜中の語らい(1)
夕暮れの坂を駆け下り、家路へと急ぐ。
腕時計を見れば、間もなく七時。
合唱部の打ち合わせで、すっかり遅くなってしまった。
お蔭でお腹はペコペコ。
夕飯を用意して待っている母と父を待たせまいと全力で走った。
玄関を開けて開口一番に、ごめんなさい!
待っていましたとばかりに、父が顔を出した。
靴を脱ぎ、駆け足でダイニングへ行けば、食卓にはいつもながらご馳走が並び、丁度メインディッシュも出来上がった所だった。
「おかえり。手、早く洗ってらっしゃい」
母の一言に、荷物を置いて洗面所へと駆け急ぎ、制服から部屋着へ。
慌ただしく、御馳走が待つダイニングに戻って、自分の席に就いた。
「「「いただきます」」」
家族が揃う時は、顔を合わせて“いただきます”の挨拶をするのが小さい頃からの暗黙のルールだ。
挨拶が済むと同時に、父と競うようにメインディッシュの肉料理に手を伸ばし、取り皿にこれでもかと乗せて、熱々のそれを豪快に頬張った。
「パパ、お酒は何が良い?」
氷の入ったグラスを見せながら、母ミヤコが小首を傾げてキュートに父に尋ねる。
そんな母に父は、優しい笑みで笑い掛けた。
「ミヤちゃんと一緒のお酒が良いな。あ、氷多めでね」
「かしこまりました、旦那様!」
父の返答に、母は満面の笑みを零し、冷蔵庫でよく冷やしておいた果実酒を鼻歌雑じりに開け始めた。
母はお酒が好きだが一人で飲むのは嫌らしく、いつも父を晩酌に誘っている。
「あのさぁ、その呼び合い方、止めない?もう結婚して二十年でしょ?」
両親のラブラブ空気に、サハナは呆れ顔。
二人の仲の良さは、ご近所にも知れ渡っているが、娘としては恥ずかしくて堪らない。
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