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「あら、焼き餅?」
「親に妬くか!」
「えぇ~、サハナ、パパのこと嫌い?」
「その文句、たぶん千回は聞かされているんだけど、そろそろ無視して良い…?」
「あら、冷たいわねぇ~」
「おかん、酔うの早いぞ…」
いつもの他愛も無い会話をしながら、御馳走へと次々に手を伸ばしていく。
今日の面白かった事、困った事、感動したこと―――…、それぞれ報告しながら時に真剣に、時に大笑いしながら、夜のごはんは出来る限り家族三人で楽しく過ごす―――。
時導の巫女になることが決まってから、それが両親とサハナの決まり事になった。
学校を卒業したら、本格的な弟子入りの為、住み慣れたこの家ともお別れして聖地に移り住むことになる。
こちらで仕事をしている父とはそうそう会えなくなるし、母も外交官として忙しくなる筈だ。
それを意識するようになってから一日一日の家族の時間を大切にするようになった。
「あ、そう言えば聖地から手紙来たよ?」
食後のデザートを頂きながら、思い出したように父が戸棚に挟んでいた手紙を見せた。
嬉々と手紙を受け取り、慎重に封を開ける。
いつもながらの素敵な便箋に書かれた親友の言葉をコメンテーターのように饒舌に両親に読み聞かせた。
数枚に及ぶ手紙を、つらつらと読み上げる娘の声に、父と母は肩を寄せ合って、時折、笑いながら耳を傾ける。
この時間も家族の大切な時間だった。
学生生活も残り僅か―――、故郷での最後の夏が迫っていた。
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