忘却のかなた

1/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 こりゃ、中止だな。  せっかく、十年ぶりにアイツと会えると思ったのにーー  そう、十年ぶりの再会は、偶然、しかもSNS上だった。  高校三年生の甘酸っぱさが甦る。SNSのプロフィール画像の中で笑うアイツは、十年前より随分と大人びて見えた。  俺はーーあのとき、アイツに思いを告げることができなかった。だってアイツには、カノジョがいたから。  写真の中のアイツの薬指に光る指輪。  結婚したのか。  でも、俺は何より、彼が俺のことを忘れずにいてくれたことが嬉しかった。  だから、同窓会の幹事を引き受けて、クラスメイトに招待状まで送った。同窓会を口実に、本当はアイツに会いたいだけだった。メーリングリストで知らせればいいのに、わざわざ招待状を作るほどに、俺は意気込んでいたんだ。  でも。  さすがに、このところの新型ウィルスの大流行では、同窓会も中止だな。  地元から出ていったやつも多いし、次に集まれるのはーーアイツに会えるのは、いつになるだろう。  俺は同窓会中止の連絡をメーリングリストで一斉送信する。  直後、SNSのDM《ダイレクトメッセージ》が通知された。 《今回、残念だな。でも、近いうちに会おうよ。二人で》  この手の震えは、こころとの共振だーー
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!