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89歳
夏の暑い日だった。小川はヨタヨタと冴子の家の玄関に入るなり、倒れ込むようにうずくまった。冴子が駆け寄り、小川の背中の荷物を降ろしコップ一杯の水を飲ませると、小川は体を起こして
「やあ、助かった。ありがとう。どうだ?冴ちゃん。ワシの嫁にならんか?ワシは、この調子じゃ、来月はもう、ここまで来られんかもしれん。頼む。ワシと結婚してくれ。絶対に後悔させんから。」
と言う。
冴子は冗談半分に、小川に聞いた。
「おじさん、金持ちなの?私に財産残してくれるつもり?」
すると小川は明るい顔になって調子よく語った。
「当た棒よ~! 金はたんまり貯め込んである。立派な豪邸も建てたばっかりだ。山も土地もいっぱいあるで、ワシが死ぬ前に結婚してくれたら、全部、冴ちゃんにくれてやる。頼む!冴ちゃん。今すぐワシと結婚してくれ。もう時間がないんだ。ワシは今、89歳だども、もうすぐ90歳になる。いや、その前に天国へ逝くかもしれん。もう天国から招待状が届いてるでな・・・ハハハハッ!」
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