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忙しい日々が続いて、僕がようやくお腹の中の子供と対面できたのは、妊娠七か月の頃だった。
産婦人科に行く玲子に付き添い、エコー検査に立ち会った。今まで判然としなかった性別が、今日こそは分かるらしい。
ベッドに横たわる玲子のお腹に、バーコードリーダーのような端末機が当てられる。すると、机上のモニターに白黒の渦を描く映像が写し出された。エコー写真だ。医師が端末機を動かすと、エコー写真ははっきりと胎児の姿を捉えた。膝を曲げ、背を丸めている。
「男の子ですね」
医師は、胎児の下腹部にある小さな突起物をペンで丸く囲んだ。
僕の分身が欲しいと言っていた玲子が待望した、男の子。彼女は満面の笑みで、目尻から薄っすらと涙を流す。
でも僕は……笑顔を返せなかった。子供の姿を見て、愕然としてしまった。
「これは、いったい――」
玲子は嬉しさのあまり気づいていない。
エコー写真に写る胎児の姿。その手は顔の横で広げられ、人差し指と親指で耳たぶをつまんでいたのだった。
〈 了 〉
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