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次に訪れたのはウブド地区のパサール(市場)。見たこともない野菜や、ファンタジー映画に出てきそうな果物、絵具で色を塗ったとしか思えないほど鮮やかな色彩の魚たち。つまみ食いをしながら、ときには舌鼓を打ったり、ときには渋面でえずいたりする。人混みの中、はぐれないように僕と玲子はしっかりと手をつないでいた。
食料品の並ぶエリアから土産物のエリアへと移ると、玲子の目が輝いた。細かな細工のガムランボールを「かわいい」と手に取り、植物柄で極彩色のワンピースを「似合うかな」と胸の前にあてがい、いくつものアタ(シダ科の植物)のバッグを物色し「これも素敵よね」と小脇に抱え、ついには木彫りの猫の人形の前でジッと固まって動かなくなった。
「この子が、一緒に日本へ来たがってる気がする」
ムトーさんの協力で値切りにねぎって、ワインボトルほどの木彫り猫を数百円で購入した。
「このまま手に持ってるわけにはいかないじゃない」
木彫り猫をしまうため、ついでにアタのバッグも購入した。こちらは、猫の十倍もの値段。本末転倒な気もするが、これだけの彼女の笑顔が見れたのだから、ちっとも高くは感じない。
市場で歩き疲れた僕らを察して、ムトーさんが案内してくれたのは、スパ。フランジパニの花が浮かぶプールを眺めながら、バリニーズアロマトリートメントを受けた。二人で並ぶベッドに横たわり、かぐわしい花の香りのオイルを体中に塗りたくられ、ゆっくりと手でなでまわされるという、なんともなまめかしく心地良い体験だった。揉まれている手や足よりも、体の芯が解きほぐされていくような感覚。女性がエステに行きたがる理由がよくわかった。
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