バビ様に出会う旅

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 医者にも通った。だが、医学的な問題は無いとさじを投げられた。本を何冊も読んだ。通説や噂話も試せるだけためした。子宝に恵まれるという神社や温泉にも足を運んだ。それでも、僕たちには子供ができなかった。結婚して七年。僕たちにはあまりも長い日々だった。  人づてに、「バリ島にすごいところがあるらしい」と聞いた。どうせまた嘘でまかせの類だろうと信じていなかった。だが、調べずにはいられなかった。僕たちは藁にもすがる思いで、バリ島のコーディネーターを探した。そして、彼に出会ったのだ。 「じゃあ、そろそろ行きましょうか」  ムトーさんは、ワルンを紹介してくれたときとは打って変わって真剣な表情でハンドルを握っている。僕と玲子は、肩を寄せ合ってうなずいた。 「まずは、第一関門です。あの方が認めてくれなければ、あきらめてください」  ウブド地区からさらに北上する。いつのまにか道路は舗装が途切れ、でこぼこの山道に変わっていた。車は、遊園地のアトラクションかと思うほどに上下に揺れた。途中、牛に道を阻まれ、四、五分立ち往生するはめになる。クラクションを何度も鳴らして追い立てると、再び険しい道を登った。  二十分ほど走っただろうか。山の中腹で、ひらけた場所に出る。家畜を飼っているらしき小屋や、畑があった。かやぶき屋根の小さな家が並んでいる。住民の指示に従って、石を積み上げただけの塀に沿って車を停めた。  車を降りるや否や、僕はトイレを借りることにした。住民に案内された場所は、古い民家の裏手。数メートル先からでも異臭が漂っていた。鼻をつまんで小便器の前に立つ。ふと気になって下を見ると、小便器からのびる配管は途中で切れており、流れ出た小便をペットボトルで集めるようになっていた。これが目にとまった途端、尿意が引っ込んでしまう。僕は逃げるように、玲子のもとへと戻る。
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