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「ザ・ぼうや 〜人形青年の輩〜」
①~透明板のあっち側の、愛しいアナタ~
ところどころ、白くにごっている厚いガラス。
ブアイスディーの街に古くからある、人形店の窓ガラスだ。
その窓ガラスの向こうから、一体の不気味な人形が見つめ返してくる。
わりと大きめで、顔も体もブヨブヨした感じで太っちょに作られており、
お世辞にも「かわいい」とも「抱っこしたい」とも言えない、怪しげな目つきの男の子の人形だ。
目と髪の色は明るいオレンジ色で、風変わりな服には派手な唇マークが刺繍されている。
「ねえ、ママ。みてみてっ。新しいお人形さんが入ってる。こっち見てるよっっ」
「あらホント。だけどなんだってこんな薄気味悪い人形なんか……しかもショーウィンドウに飾るなんてどうかしてるわ」
「あのお人形さん、なにかゆってるよ?」
「お人形がしゃべるワケないでしょう? おかしなこと言ってないで、さあ行くわよ」
顔をゆがめる母親に手を引かれ、幼い女の子は人形が座っているショーウィンドウから離れて行く。
よほど気になるのか、何度も人形の方を振り返りながら……
そんな母娘を店の中から見ていた店主の妻は、夫を横目でにらみつつ「ハァ~ッ」と、深く息をもらした。
「これで今日、何人目だい?
いつまであの人形をあそこに置いとくつもりなのさ。うちの店のいち推しだなんて変な誤解されちまうよ」
「ああゆうのが好みの客だっているかもしれんだろ? さっきから見てると子供にはウケがいいようだし……
早いとこ売ってしまいたいなら目立つ場所に置いとくのが一番だ」
「捨てればいいだけの話じゃないか」
「拾った人がわざわざうちの店に持って来てくれたんだ。そおゆうワケにもいかんよ。せめて七日くらいは置いとかないとな。
確かに奇妙な人形だが状態はいい。
それに、捨てるのは1インリョーの儲けにもならんが、もし売れればちっとでも得にはなるだろう?」
「売れるのかねぇ? あんなブサイクな坊やちゃんが。着せてる服も安もんぽいうえ下品だしねぇ……」
幼い子供の母親には「薄気味悪い」と敬遠され、店主の妻には「ブサイク」だの「安もんで下品な服」だのと蔑まれ……
ショーウィンドウに座っている人形はガラス越しに街の通りをひたすら見つめ、哀愁に淀んだまなざしを行き交う人々へと一心に注いでいた。
まるで、救いを求めているかのように……
まるで、生きているみたいに……
そして、恐るべき事に人形は人知れず、その不気味な外見にふさわしく怪奇な現象を引き起こしていた。
うら若き乙女や美しいご婦人が通るたびに人形は哀愁のまなざしを一変させ、
ネバネバとからみつく執拗な視線で彼女たちを追い続け、
動くはずのない目の玉をギョロギョロさせているばかりか、動くはずのない頬の筋肉をも上げてニタニタとニタついているのだ。
それはやたら大人びた、子供らしからぬ好色な笑みだ。
にごった窓ガラスにかすみ人形の怪現象は通りからでは目視しにくく、店主夫妻には背中を向けているため誰にも気付かれてはいないのだが……
拾われ、届けられた男の子の人形。
それはただの人形ではなく、無料同然の値で売りに出されながら、ただものではないただならぬ人形だった……
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