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②~ピンチは時に、かたく閉じられた扉をもこじ開ける~
「それで? 煎ニィはいくらで買い取ったんだい?」
「1インリョーらしいわよ?」
「1だって!? なんだよ、それ! 払わなくても良かったくらいじゃん!!」
ようやくドリンガデス国に入り、長旅の疲れを癒すべく宿屋に泊まる事にした豆実とアップルダ。
二人はある田舎の駅で列車から降り、山中にあるらしい安い宿を探す途中、ちょっとした飲食店に立ち寄っていた。
「それにしても煎ニィ。なんだって魔女退治になんか参加したんだろ……」
「クッペちゃんには、人形にされた女の子を助けるためだって言ってるらしいわよ?」
「やっぱ女がらみか。そんで自分が人形にされてるんじゃカッコつかないよなぁ〜
ミイラとりがミイラになる的な?」
「ホント、何してるんだか……」
「ところで豆ネェ。クッペはどこ行っちゃったのさ?」
「クッペちゃんこのところ遠隔交信続きでかなり力を使ったでしょ? その上ずっと列車の中だったし……
だから自然の中でパワーの充電してくるって山奥の方に出かけて行ったわ」
「自然の中でって……ここいら、どこ見渡しても自然だらけだよ? わざわざ山奥まで出向かなくてもさあ」
「いいじゃない。相当疲れてるみたいだったし、しばらく一人にさせてあげましょ」
二人が立ち寄った飲食店はさまざまな果樹に囲まれており、屋外にのみ三つの席が設けられている。
木々の葉がすれ合う音や木の実をついばみに来た鳥たちのさえずる声、枝と枝の間を吹きぬける風の息吹。
それらが絶えず聞こえてくる、のどかな場所だ。
店を営んでいるのは高齢の女性で、
客は豆実とアップルダの他にもう一人、黒いマントのフードを鼻下まで下ろした男性の客が後ろの席に座っていた。
その男はなんとも優雅にコーヒーを飲んでおり、顔はほとんど見えないがコーヒーを飲む程度のわずかな動作ひとつにも何かしら気品のようなものが感じられ、
こんな田舎の店には到底似つかわしくない高貴なオーラをかもし出していた。
「ねぇねぇ、豆ネェ。あの人、どうしてフードで顔かくしてんだろ。もしかしてお尋ね者なのかなっっ」
「シィッ。聞こえちゃうでしょ?
雰囲気からしてそんな悪い人だとは思えないわよ。どことなく品がある感じだし……」
「上品だから悪人じゃないなんて、なんでそんなこと言えるのさ」
「別にそおゆう意味で言ったんじゃ……
もうっ。プルダちゃんたら。そろそろ行くわよっ」
豆実はテーブルの上に小銭を置き、立ち上がった。
「クッペはどおすんだよっ? まだ充電中だろ?」
「長くかかりそうだし、それに、後からまたテレパシー送るって言ってたから大丈夫よ」
「そおだね。早いとこ宿探さないと日が暮れちまってもいけないもんね。よしっっ」
ミックスジュースを飲みほし、アップルダも元気よく立ち上がる。
「ごちそうさまでした」
「おいしかったでーす!!」
豆実とアップルダは、小屋で果実の仕分けをしている店主の女性に声をかけた。
店主はニッコリとほほ笑んで返し、二人を優しいまなざしで見送ってくれた。
しかし、フード付きマントの男はギラリと瞳孔を光らせ、店主の女性とは違い鬼気迫る表情で、去って行く二人の様子を見澄ましていた。
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