〔Nuclear bomb〕

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

〔Nuclear bomb〕

MC『ヘーイ! 視聴者のみんな、お待たせしました。今夜もおっ始まったぜ、「このボタン押すの? 押さないの?」ってな感じで! 毎回、各国の首脳が熱く討論する真面目でポリティカルな番組なんだぜ、ヒャッホー! え、ポリバケツみたいなゴミが詰まったジャンクな番組の間違いじゃないかって? ウッヒョー! 言ってくれるね、ユーモアとウィットに富んだオーディエンスのみんな。まさしく、その通り。所詮、TVの世界はキッチュでインモラルで、下品なエンタメ文化かつトラッシュの底辺だ。クズで自己承認欲求が強くて、大枚をもらいたい、そう、つまりは目立って楽して金を稼ぎたい連中の巣窟だからね。クソな人間の集まりだぜ、俺も含めて! でも、そういうのって社会の縮図を見てるような感じじゃないかい? だからこそこんな、世界の覇権を握れるような先進大国であり、膨大な核保有をしている国同士の首脳が、目の前に置かれた核発射ボタンを、討論の末に感情的になって押してしまう方が論破されちゃった、なんていうクレイジーな娯楽番組が成立しちゃうんだよね! さあ今夜も我らY国で世界中で絶賛放映されているこの番組に、X国首脳とZ国首脳が来てくれているぜ。あ、言わずもがなだけど、X国とZ国の国民の皆さんは注意してね。しっかりと両国首脳の前に置かれた二つのボタンは、互いの国に核弾頭を発射する用意が出来てるからね。いつ核爆弾が落ちてくるか分からないよ。うーん、核の脅威に対抗するには、シェルターに入っているか、シェルターがない人はアルミホイルに包まってるのが得策だね。イヤッハー、我ながらナイス・ジョーク! それでは首脳同士のディスり合いの始まりだ。各々の言い分に核爆弾の思いを込めて、ターゲットをロック・オン! んじゃ、スターティンっ!』 X国首脳『だいたいアンタの国は機密性保持の歴史が長すぎたんだよ。その鉄のカーテンっぷりがどれだけの邪推と誤解を生み世界を緊張させたか』 Z国首脳『そんな事言うならソッチの方は常に出しゃばって世界の警官やらを気取って、アホみたいな軍事大国にしてきたじゃんか。それこそ平和と秩序を乱している』 X国首脳『おいおい、飛んだ言いがかりだな。テメエの国の方が挑発してきたから、俺らの国は正義をかざさなければならなかったんだよ。そのための必要悪としての軍事力だったんだ』 Z国首脳『何を言ってやがる。テメエの国と言ったら、テメエの国流の腐った市場原理で蝕んだ自由主義を、他の国に押し付けてテメエの国の都合の良い方向に世界を誘導しようとしてたじゃねえか。極論すれば世界征服だろ。それを俺らが防ぐために対抗してたんじゃねえか』 X国首脳『テメエの国はイズムなんて全くなく、だから大義みてえのが無いから、代々の王朝でロクな君主がいなかったじゃねえか? それでもって無駄に国土が広いが故に、うまい事まとまりがつかなくて、その果て、今じゃ少数民族浄化にして虐殺しまくってるんじゃねえのかよ』 Z国首脳『はは、笑わせてくれるぜ! テメエの所なんかロクに歴史がねえじゃねか。建国して300年もまだ経ってないような青二才国家がほざくんじゃねえよ。それに虐殺どーのこーのだったら、人種差別的にテメエの国はどれだけ虐待しまくり殺してるんだよ。人種の坩堝が逆に足枷になってるんじゃねえか』 X国首脳『タコがっ! 多種多様の人間どもがいるからこそ、ウチの国民は優秀なんだよ。俺ん所のGDPをナメるなよ』 Z国首脳『ケっ! 元々、所詮は自国の負け犬どもが集まった、言っちまえばドヤ街流れ者の群れだろうが。国を追われた漂泊者だらけの移民国家風情が偉そうに。たまたまテメエらの移った国が運良く資源に恵まれていたからイイ感じに後々ジャズ・エイジを迎えられただけで、その前から居座っていて生活していた先住民たちをジェノサイドしただろ。強奪、掠奪そのまんまじゃねえか』 X国首脳『それこそ笑わせるんじゃねえよ。テメエの国が近代化を謳うために行った大粛清はどうなんだよ。餓死者もたくさん出したよな』 Z国首脳『テメエの国はその近代化のために内戦起こして60万人以上の死者を出したよな。何じゃそりゃ』 X国首脳『アホか! それこそ笑止だわ。テメエの国は独裁者のために2000万人ぐらいぶっ殺されてるじゃねえか。つーか、テメエらの陣営の国はいたいけな市民を殺しまくり過ぎてんだよ。6000万人以上自国民をぶっ殺した独裁国家もテメエら側の属国じゃなかったか、アアん!』 Z国首脳『テメエらが行ってる格差社会を生む悪習の経済主義を打破するためには、多少の痛みを国民に伴わせなければならねえんだよ』 X国首脳『多少じゃねえだろっ! 千万単位国民殺しといて。だいたい根本的にテメエは昔ほどではないとはいえ、俺様の国に対してライバル意識が強過ぎるんだっての。だから他の国に代理戦争させて、コールド・ウォーならぬ局地的なホット・ウォーを展開させちまったから、今になってもシコリが残って変な具合に軍事戦争と経済戦争がごっちゃになってるんじゃねえか』 Z国首脳『相変わらずの上目線のベシャリだが、まるでテメエの国は問題なく、勝手にコッチの方がケンカを売って、世の中を混乱させてるような事を言ってんな。今までのテメエの戦争のおっ始め方のヤリ口は、相手国を挑発させて因縁をふっかけて、向こうからケンカを売らせて、そんでもってアッチからバトルを仕掛けてきたから仕方がないから僕チンたちはヤルんだよ~みたいな被害国スタンスで存分に楽しんで、ケンカを買ってき続けたじゃねえか。この偽善国家が、調子こくなよ。んな事より、テメエらの国はどんだけの嘘を世界中にバラ撒いて、テメエのやる事なす事の正当性を訴えて来たんだよ。戦争の口実作りで、魚雷で相手国から攻撃されたとか、大量虐殺兵器を某国が所持しているとかってほざいて、実は捏造と改竄の嵐のような文書を作成したモンだったろうが。それに色々と人を騙し騙しては、どこぞの国の首相を暗殺しようとしてたけど、全部失敗してるしよ。裏で悪さしまくってる挙句、その後はそれらの所業が表に出て、世界からも国内世論からも非難しまくりじゃねえか』 X国首脳『ふざけんなっ! そもそもはテメエの国が勝手に俺んトコの近くの国の近くに、核ミサイル発射基地とか作ろうとしてパニックにさせたんじゃねえか。テメエの国は毎度そうなんだよ。自滅するまでテメエ自身がお騒がせ国家なのに気付きやしねえ。この白瓢箪がっ!』 Z国首脳『白瓢箪だと!? 青瓢箪ならぬ白瓢箪と今テメエはほざいたかっ!』 X国首脳『ああ、言ったね。それとも赤瓢箪と言った方が良かったかな。いや、ただの「アカ」野郎かっ! ダッハッハッハッ!』 Z国首脳『も、もはや堪忍袋の緒が切れたわいっ! でいっ!』 MC『おーっと、ここでZ国首脳が核ミサイルのボタンを押してしまった! 論破して勝ったのはX国首脳! ん? おや、何とX国首脳も核ミサイル発射のボタンを押してしまったぞ? これはどういう事だ。おお! 何と両者が今抱き合って健闘を称えています。つまり、この論戦は痛み分け、という事ですね。何と感動的な光景でしょう。さっきまでいがみ合っていた大国のトップが、必要以上にしつこい程のハグをまだしています。オッサン同士、いい加減気色悪いです。しかし、どうやら世界大戦には至らず、最小限度の被害の国家間のケンカで事なきを終えました。あ、X国とZ国の国民はこれから空から降ってくる核弾頭に注意して下さいねっ! そうそう、周囲の国々のコモンズも放射性物質がまき散ると思うから、外出は控えめに! それでは今回は見事なハッピーエンドで幕を閉じた「このボタン押すの? 押さないの?」ですが、X国とZ国の視聴者の皆さんは生き延びてたら、フィッシュチップスかスパム片手に今度も観てくれよなっ! んじゃ、シーユー!』                            了
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!