メリーさんと最近、後輩の様子がちょっとおかしいんだが

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「無理なのどうしても。相手が普通の人ならどうとでもなったかもしれない。でも今回はダメなの」 「でも出来ないわけじゃないんだろ?」 「でも出来ない」 「だから!」 「落ち着け柴田。アンジェ教えてくれ。川本の記憶を取り戻すことは出来ない、それはどうしてだ?」  思わずアンジェに掴みかかりそうな柴田を制して俺が代わりに尋ねる。 「相手があのノワールだからよ」 「ノワールだから?」  俺が聞き返すとアンジェが頷く。 「以前わたしがシエルとの過去について話をしたことを覚えているかしら」 「……ん、まぁ」  あの時のことは今でも少しトラウマになっているせいで本音を言うなら思い出したくない。 「あの時わたしがメリーさんと初めて出会った時、わたしと同じ存在に出会ったのは“二人目“だと話したのを覚えてる?」 「確かそんなこと言ってた気がする」 「あの時わたしが出会ったもう一人というのはノワールのことなのよ。ノワールはわたしがメリーさんとして生を受ける以前から存在していたの。今じゃ色んなところにメリーさんと呼ばれる存在はいるけど、わたしが生まれた時はまだ片手で数えられるくらいしかいなかった。そしてそんな数少ないメリーさんの中でノワールが一番最初にメリーさんとなった存在。いわば原初のメリーさんといったところかしら」 「一番最初のメリーさん……」  アンジェからもたらされた言葉に俺は言葉を失っていた。 「一番最初に生まれたということもあるけれど、わたしたちメリーさんの中でもノワールの存在というのはちょっと特殊なの」  アンジェが昔を懐かしむようにぽつりぽつりと話し始める。 「ノワールを生み出したのはある一人の男だった。その男はある人形師の一族として性を受け、幼少期から人形を造るための教育を受けていたそうね。その為か若い頃から男の腕は一族の中でも特に秀でたもので、その実力は一族随一と言われたほどよ。男が生み出す人形はそのどれも人々を魅了してやまないものばかりで、名のある貴族や富豪が男の生み出す人形を求めて自身の財の全てを投げ売ってでも求めたのだとか。それほど男の造り出す人形には魅力があった」  まるで本当に生きているかのような造形だって。しかし……と一度区切る。 「男はたくさんの人形を造り続けた。けれどそのどれも男の満足のいくものではなかった。人々が求めるものと、男が求めるものにはそれだけの差があった。だけどある時、ついに数ある人形の中でもとうとう自分の最高傑作ともいえる作品を生み出した。これ以上ないほどの造りに作者である男自身が思わず見惚れてしまうほどだった」 「それがノワール?」  俺が尋ねるとアンジェはコクリと頷く。
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