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「……ちょっといま何時だとおもってるの」
「何時もなにももう昼だぞ。それに今日は木内たちが来るからちゃんと準備しておけって言っただろ。お前のことだ大方ゲームでもして夜更かしたんだろ?」
「うっ……」
痛いところをつかれたらしいアンジェが珍しく渋い顔をしていた。
「ほらお客人の前でいつまでそんなジャージ姿でいるつもりだ? 早く着替えてこい」
俺たちにお茶の準備をしながら柴田が促す。さすがにアンジェもそのままじゃ悪いと思ったのかそれともこれ以上お小言を頂戴するのが嫌だったのか、言い返すこともせず奥へ戻っていった。それにしても二人のやりとりを見ていると年の離れた兄妹というよりおかんと娘みたいな雰囲気だった。
「見苦しいもの見せたな」
「いや、むしろ珍しいものを見た」
そう言う俺の横で同じようにメリーさんがコクコクと頷いていた。
「普段からあんな感じなのですか?」
「ちゃんと言い聞かせてるんだけどな。どうにも人の話は右から左らしい。まるで言うこと聞きやしない」
そこらの野良猫だってもう少し聞き分けがいいぞと柴田が呆れていた。
「ちょっと聞こえてるけど?」
と、いつものドレス姿に着替えたアンジェがやってきた。それに対して「聞こえるように言ってるんだよ」と売り言葉に買い言葉で返す柴田。
「それで今日来てもらったのはまぁ今さらだが川本についてだ。そのことを専門家である二人に相談したかったんだ」
「専門家ってそういうことか」
確かに柴田の言う通りこういったことに関してメリーさんたちは専門家といっても間違いない。これで川本の記憶を取り戻す手がかりのようなものが見つかればいいが。
「大体の事情はわかったわ」
俺たちが話している間、アンジェは一言も喋らずジッと目を閉じていた。そして俺たちの話を全て聞き終えるとアンジェが静かにテーブルに置かれたティーカップを手に取った
「それでどうだ? なんかいい案はあるか?」
「残念だけどわたしに出来ることはなにもないわ」
無理な話ね。と切り捨てるように付け加える。
「無理ってそんなあっさり言うなよ。ほらなんかあるんだろ? お前らの変わった能力でさこうパパッと解決とか出来ないのか」
「確かにわたしたちメリーさんは貴方たち人間とは違うわ。だから本来なら記憶を取り戻すことだって出来ないことはない」
「だったら」
「無理なの」
アンジェが目を伏せて言う。滅多に感情を表に出さないアンジェが珍しく声を震わせていた。
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