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(やっと出来た…!
今までの僕の作品の中じゃ、これは最高の出来だ!!)
アルドーは、窓を開け白み始めた空を眺めた。
冷んやりとした空気が、気持ち良く顔を撫でる。
アルドーは、思いっきり伸びをして背筋を伸ばし、今完成したばかりの絵に視線を落とした。
絵にはこのあたりの風景が描かれていた。
のどかな田園風景の真ん中に赤い屋根の家が描かれている。
その傍らには、小さな女の子とその女の子と同じ位の大きさの白い犬、そしてそれらを愛しそうに眺める女性…
本来、この場所には家など建ってはいない。
赤い屋根の家は、ライラの夢…
結婚したら煉瓦作りの赤い屋根の家に住んで、可愛い女の子を産み、そしてふわふわした毛足の長い白い犬を飼うのが昔からのライラの夢だ。
ライラからいつもそんな話を聞かされていたアルドーは、彼女の夢を一足先にキャンバスの上で実現させたのだ。
それだけに、今度の絵にはアルドーもいつも以上の情熱を注ぎ込んだ。
最初は、なんとしてもコンテストで優勝することが目標だった。
しかし、何ヶ月もかかって描いているうちに、アルドーにはこの絵の風景が現実の物のように思えて来た。
その場所へ行くと、本当に赤い屋根の家が見える程、彼はいつの間にかその作品に没頭していた。
(たとえ、優勝できなくても、今度こそライラと結婚しよう!
そして、この絵と同じ風景を現実に創り出すんだ!)
アルドーがそう思えるまでになったのも、この絵に全身全霊を傾けたからに他ならない。
この間は仕事も休んで絵だけに没頭した。
生活面ではライラに多大な迷惑をかけてしまったが、そのおかげで、何も思い残すことのないほど満足する絵が描けた。
人の評価なんてもうどうでも良い。
ここまでふっきれた気持ちになれたのも、彼が幼い頃に絵を描き始めてから初めてのことだった。
最近は、徹夜続きだったので休もうかとも思ったが、アルドーはその前にどうしてもこの絵をライラに見せたいと思った。
彼女にはどんな絵を描いているのかも教えてはいない。
出来あがったばかりのこの絵を見たら、彼女はどんな反応をするだろうか?
そう思うと今すぐにでもライラの元へ持って行きたい衝動にかられたが、ここで失敗しては元も子もない。
アルドーは辛抱強く絵の具が乾くのを待ち、完全に乾いたのを確認すると絵を布で包み、すっかり明るくなった町へ飛び出した。
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