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「待ちくたびれたわ」 エマが美しく彩られた唇を前に突き出した。 「いや、不思議な出来事を楽しんでた」 「あらそう。わたしも誘ってほしかったわね」 「ロンドンはつくづく不思議なところだ」 「何言ってるかよくわからないわ。パーティが始まっちゃう」 「そうだね、車を出してくれ」 僕は運転手に命じた。エンジンがかかり、車が軽やかに唸りを上げはじめた。 「あなた、マジックは成功しそう?」 「ああ。完璧だよ」 ハリーが電話ボックスに目をやると、霧に取り巻かれた電話ボックスの中で青年が懸命に話し込んでいた。 「あら、霧がボックスの中に入り込んで、まるで白い花のブーケみたいね。わたしたちにもああいうときがあったわよね」 エマがその様子をちらりとみて微笑んだ。 車は静かに夜の町を走り出した。 end
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