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講義が終わり、俺は部室へ向かった。部室に着くと、どうやら誰もいないみたいだった。鍵を開けていると、隣から足音が聞こえてきた。そちらの方を見ると、黒川先輩が近づいてきていた。
「よっ、春野くん。タイミングバッチリだねー」
黒川先輩は手を振りながら笑顔でそう言ってきた。
「こんにちは、先輩。はい、そうですね」
俺も笑顔でそう返した。鍵が開くと、扉を開け、二人で中に入った。俺は早速説明しようと口を開いた。
「すみません、先輩。早速出発しましょうと言いたいところなんですけど、小林から午前の講義が終わった後、話があるから部室に来るように言われてて、本人はまだ来てないみたいなんですけど、それが終わるまですこしだけ待ってていただきたいのですが…」
「えっ、春野くんもそうなの!?私も朝ゆうちゃんから全く同じ内容のLINEが来たんだけど」
「えっ!?それ本当ですか?」
「うん」
黒川先輩の返事に俺は驚いた。しかし、驚いたのは黒川先輩も同じようで、二人ともしばらく黙り込んでしまった。そんな中、勢い良く部室の扉が開いた。
「お二人とも、お待たせしてすみませーん!講義がすこし長引いてしまって」
小林が飛び込むようにして部室に入ってきた。そして手を顔の前で合わせながらそう言った。
「いや、そんな待ってないから全然いいんだけど。小林、今日は俺だけじゃなくて黒川先輩も呼んでたのか?」
俺はひとまず疑問を解消したくて、小林に確認した。
「はい、そうですよー。今日はお二人に話があるのでー」
小林は部屋の中央にある机に向かいながら、いつものふざけたような抑揚をつける口調で言う。
俺はとにかく何の話があるのかが気になっていた。そもそも俺一人をこうやってきちんと呼び出すことすら初めてだったのに、黒川先輩と俺の二人に話があるとは、どういうことだろう。
「とりあえず座りましょうよ!」
小林は自分が座りながら言う。俺と黒川先輩は小林の向かい側に並んで座る。
「それで、なんだ?」
俺は早速本題を聞く。
「まあまあ、そう焦らずにー。てゆーかですね、先輩。ゆうは怒ってるんですよー」
小林は俺の方を見て、ムッとした顔をしながら言う。
「えっ?なんで?」
俺は驚きながら言う。小林が言ったことに本当に心当たりがなかった。
「だって先輩、ゆうにはダメだって言ったのに黒川先輩は家に入れてるじゃないですかー」
小林はムッとした顔のまま言う。
「あー、それはだなー」
俺はそのことかと思った。どう言い訳をしようかと考えていると、視界の端に黒川先輩がひどく驚いた顔をしているのが映った。俺はそれを見てすぐになぜ黒川先輩が驚いているのかが分かった。俺は慌てて小林に聞く。
「こ、小林、なんでそれを…?」
昨日、俺と黒川先輩は、皆が見えなくなるのを待ってから合流して帰ったはずだ。だから、小林がそのことを知っているのはおかしいのだ。
「ふふっ」
小林は笑ってごまかして、俺の質問には答えなかった。
「先輩は、黒川先輩のことが好きなんですか?」
そしてすぐに話をすり替えてきた。
「いや、そんなことよりなんで…」
「そんなことじゃない!春野先輩は、黒川先輩のことが好きなんですか?」
小林の口調と顔が突然まじめになった。
「ま、まあ、うん」
俺は小林の圧に負けて質問に答えてしまった。今の小林からは、もはや恐怖を感じていた。
「はー、やっぱりそうですかー。まあうすうすそんな気はしていましたよー。で、黒川先輩は、春野先輩が好きなんですか?」
矛先が黒川先輩に移る。口調はいつものふざけた感じに戻っていた。小林にじっと見つめられた黒川先輩は、何も言わずにコクリと一つ頷いた。俺は、こんな状況だが、両想いだと確かに分かり、胸が踊ってしまっていた。
「まあまあいいですいいです。許容範囲内です。ゆうはそんなことで諦める女じゃありませんよー」
小林はそう言ってから自分の鞄を手で探り始めた。
「あっ!そういえば先輩、風邪ひいたりしてませんよね?」
小林が鞄を探る手を止めて、顔をこちらに向けて聞いてきた。
「風邪?ひいてないけど」
俺は不意の妙な質問に、顔をしかめながら答えた。
「そうですか!それは良かったです」
小林はニッコリと笑いながらそう言ってから、再び鞄を探り始めた。
「なんでそんなこと聞いたんだ?」
「いやー、昨日の夜寒かったので」
結局よく分からなかったが、別に問い詰めるようなことではないと思ったから、これ以上聞くことはしなかった。
「あっ、あった!」
小林はそう言って、鞄から紙の束を取り出した。
「本当はこれを言うのは怖いんですけど、先輩に嫌われるんじゃないかって。でも、もうそんなことも言ってられないんでね!」
小林はそう言ってから、紙の束を机の上にばらまいた。すると、すぐにそれらが写真であることが分かった。俺と黒川先輩はそれらをじっと覗き込んだ。
「俺の…写真?」
それらは全て、様々な角度から撮られた俺の写真だった。俺はすぐにはこれらの写真のおかしさに気づくことができなかった。
「あっ、私も写ってる。って、こ、この写真!?」
黒川先輩は、ひどく焦ってそう言ってから絶句した。
「黒川先輩!?どうしたんですか?」
俺はそう言ってから、再び机の上の大量の写真を見た。そして、気づいてしまった。
「!?」
俺はあまりに驚き、声すら出なかった。
それらは全て、俺の部屋の中の写真だった。
俺はどういうことだという視線を小林に向ける。すると、小林は照れたように少し俯き加減で話し始めた。
「実はですね、ゆう、ずっと先輩の家にカメラ仕掛けてたんですよねー。これはその動画から切り抜いて作った春野先輩の写真コレクションです!昨日、先輩がグッスリ眠っている間に部屋に入って、カメラ回収したんですよ。まあこれまでも先輩が学校とかバイトとか行ってる間に何回か家に入ったことはあったんですけどね。それで昨日映像を見たら黒川先輩がいたので、もう驚きましたよ!」
俺は混乱する頭で、必死に小林の話を理解しようとしていた。あまりにも信じ難い話なので、ゆっくりと時間を掛けて、徐々に理解していった。
(お化けのものだと思っていたあの視線は、小林のカメラだったのか…)
俺はこれまでの怪奇現象が人間によるものだったと気づき、驚愕していた。
「どうやって家に入ったんだ?」
色々と言いたいことが頭の中を巡っていたが、俺はなぜかそれだけを口に出していた。
「あのアパートでなぜか先輩の部屋だけ改装されてなくて古いタイプの扉なんで、あれくらいなら素人でも楽勝でピッキングできますよー」
小林は呑気な口調で言う。
こいつはおかしい。本当にヤバいやつだったのだ。こいつと関わった時点で俺はもう負けていたのだ。そう思った。
「でも、勘違いしないでくださいよ!本当はいけないことだって分かってますけど、そんなことをするくらい、ゆうは春野先輩のことが好きってことなんですからね!」
小林は焦ったように早口でそう言ってきた。俺の頭の中はもう真っ白だった。もはや小林が何を言っているのかも理解できなかった。
「だから先輩!黒川先輩より、私を見てください!」
小林は大きな声で言う。しかし、俺も黒川先輩も何も反応しない。
小林は写真の数枚を手に取って俺たちの方に近づけてくる。そして、言う。
「せーんぱい、これがゆうの、愛の証明ですよー」
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