愛の証明

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(普通に話している分には良い娘なんだけどなー) そんなことを考えながら、俺は扉を開け部屋の中に入った。 現在、時刻はおよそ十五時。約束の時間まであと三時間程だ。  俺は映画を見ようと思った。ちょうど先日近くの店で借りたものがあったのだ。 映画鑑賞は俺の数少ない読書以外の趣味の一つだ。特にホラー映画が好きでよく見る。正直ホラーが得意とは言えないのだが、得意じゃないからこそ味わえるドキドキ感がたまらないのである。 俺は借りていたホラー映画のDVDをテレビの下にあるデッキに入れ、ソファに座った。リモコンを操作して、映画を見始める。 一時間半が経つ。物語は佳境だ。 一人暮らしをしている主人公の女性は、部屋の中にいるときに感じる妙な視線にずっと怯えていた。更にはポルターガイストなどの怪奇現象も続け様に起き、ついには霊能者を呼ぶことにした。すぐに除霊に取り掛かってくれたのだが、霊能者が幽霊に取り憑かれてしまい、主人公を襲い始めた。 俺はドキドキしながら画面を食い入るように見ている。しかし、そんな時だった。 (!!) 俺は背後に視線を感じ、慌ててそちらの方を見た。しかし何もない。 俺はしばらくその一点を見つめて、荒く息をしていた。ホラー映画を見ていたのが相まって、とても怖かった。この視線は今に始まったわけではないのだが。 俺の部屋は曰く付きだ。一昨年に前の住人が自殺している。だからだろう、部屋中のあちこちから度々視線を感じるのだ。まさに、この映画とほとんど同じ状況なのである。 しかし、おかしなことにこの視線は、この春から突然感じるようになったのである。去年はこのようなことは全くなかった。だから曰く付き物件でも何の不自由もなく暮らしていたのだが、一ヶ月程前から突然視線を感じるようになり、非常に不快な思いをしていた。 一息つくと、俺は再びテレビを見た。すると、もう既に霊能者の体から出た幽霊が除霊されている場面だった。 ほとんど終わりだったが、これ以上見る気分ではなくなったのでテレビを消した。なぜこんな自らと同じような状況のホラー映画を借りてしまったのだろうか。俺はとても後悔していた。 飲み会の時間までまだ一時間と少しある。俺は寝ることにした。夜型の俺は普段はこんな時間に眠くなることはないのだが、今日はやけに疲れていた。 ソファに横になる。少しでも目を開けると、何かと目が合っているような気がする。目を閉じていても、視線を感じるような気がする。俺はギュッと目を閉じる。しばらくして、眠りに落ちた。 パッと目が覚める。すぐに今は何時だと思った。目覚ましもかけずに寝てしまったので飲み会が始まってしまっているかもしれない。 部屋に時計が無いので慌ててスマホを探そうと体を起こそうとした。しかし、できなかった。体が動かないのである。 俺は困惑したが、すぐに自分は今金縛りにあっていると察した。その瞬間、ドッと恐怖が押し寄せてきた。金縛りにあったのはこれが初めてだった。 本当に全く体が動かない。俺はどうすることもできないので、ギュッと目を瞑り、再び寝ようとした。すると、意外とすぐに眠ることができた。 再びパッと目が覚める。スマホの時計を見ると、五時五十分だった。俺は、今度は体が動いたことと、飲み会に間に合うことに安堵した。 やはり、これもまた霊の仕業なのだろうか。俺は沈んだ気持ちになっていた。急いで支度をし、そんな気持ちのまま家を出て焼肉屋へ向かった。
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