愛の証明

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「おい、春野!」 突然大友先輩に名前を呼ばれる。俺は大友先輩の方を見る。 「お前ん家ってすぐそこだろ!まだ喋り足りねーし飲み足りねーからお前ん家で二次会するぞ!」 「はっ!?」 相変わらずの大友先輩の突拍子のない提案に俺は驚きの声を上げた。そして慌てて反論する。 「ちょっと、困りますよ!俺ん家そんな広くないですし、俺は酒飲めないですし」 「別にいいじゃねーか。細かいことは気にするなよ」 大友先輩は無理やり話を進めてくる。周りもどうやらその気のようだ。 非常にまずいことになった。せっかく黒川先輩と家で二人きりのチャンスだったというのに。 はっ、黒川先輩なら大友先輩を止めるのに協力してくれるのではないか。そう思い、俺は黒川先輩の方を見る。しかし黒川先輩は特に気にする様子もなく最後の酒を飲み干している。 そうか、先輩は俺に本を借りたいだけなんだ。別に俺の家に来ることに深い意味は無いんだ。なんなら俺の家で二次会をやってくれた方が楽なんだ。 そう思い、俺は観念して二次会会場を引き受けようとした。すると、突然これまで静かだった小林が突然口を開いた。 「あのー、やめた方がいいんじゃないですか?こんな時間に大勢で押し掛けるのは迷惑ですし、明日も平日なので学校ですし。それに春野先輩体調があんまり良くないみたいですよ」 初めて聞く小林の冷ややかな口調に場が一斉に静まった。俺もかなり驚いた。 「春野、そうなのか?」 少し間が空いた後、大友先輩が俺に聞く。 「はい」 俺は今更本当は別に体調は悪くないなど言えないし、断る絶好の文句だと思ったので頷いた。 「そうか、小林が言うことももっともだし、今日はやめとくか」 そう言って大友先輩は引き下がってくれた。まさか小林に助けられることになるとは思わなかった。 時間になったので全員大友先輩の前に代金を置き、店を出る。席の場所的に俺と小林が最後だったのだが、店を出た直後に小林が俺に話しかけてきた。 「先輩、多分疲れてるんだと思いますよ。これ、よかったら飲んでください。」 そう言って小林は俺に一つ錠剤を手渡した。俺は訝しみながら受け取った。 「なんだ?これ」 「疲れに効く薬です」 「あー、なるほど。いいのか?もらって」 「はい!先輩のためですもの!」 「そうか、ありがとう」 「早くお元気になってくださいね!」 最後はいつもの元気な調子で言ってきた。いつもは憎たらしいと思っていた笑顔がやけに可愛く思えた。 大友先輩が会計を終え、店を出てきたところで解散の流れができる。俺は駅に向かう皆と反対方向に進む。 黒川先輩を見ると、何か言い訳をして近くのコンビニに駆け込んだようだった。俺は皆が角を曲がり見えなくなった頃合いを見て、そのコンビニに入った。 黒川先輩は雑誌を読みながら時間を潰している。俺は横に立ち肩を叩きながら声をかける。 「黒川先輩、もう大丈夫ですよ」 黒川先輩は一瞬驚き肩をビクッと震わせた。しかし、その後俺の顔を見て笑顔になった。 「ビックリした、春野くん、来てくれたんだ」 黒川先輩はそう言いながら雑誌を棚に戻す。俺は「はい」と言いながら頷く。黒川先輩は店を出ようとする。 「あっ、ちょっと待ってください」 俺はそう言って黒川先輩を引き止めた。せっかくコンビニに入ったのに何も買わないのはあれだと思ったし、少し甘いものを食べたい気分だったのでチョコレートなどのお菓子を買ってから店を出た。 二人で並んで歩きながら家に向かう。まだ酔っているのだろうか、黒川先輩の顔は少し赤く火照っている。俺はそんな横顔をチラチラと見ていた。 「さすがに皆に知られるのはまずいかなと思ってね」 黒川先輩は突然口を開いた。俺は驚いて前を向いた。チラチラ顔を見ていたことがバレたのではないかと不安になったが黒川先輩は前を向いたままだったので安心した。 「ん?あー、そうですね」 俺は一瞬何のことか分からなかったが、すぐに、皆には言わずにこっそり俺の家に来ようとしていることだと分かった。だから返事がつい素っ気なくなってしまった。 二分ほど歩くと、あっという間にアパートに着いた。俺は黒川先輩を部屋に招き入れる。
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