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「どうしたの、A」
「どうしたの、こうしたもないよ!」
Aは細長い体を前のめりにして、Bに詰め寄った。
あわあわと口をパクパクと開いて、残り僅かになった燃料計を指差す。
パイロットA、B、Cを乗せた宇宙船は、あと僅かでガス欠になることを示していた。
「おい、Aってば。お前がそんなに慌てたら、間に合うものも間に合わなくなるだろ」
すると、Cが雄々しい顔で諌めた。
「お前が無駄に動くだけでも、無駄なエネルギーを使う」
「……おお。確かに!」
宇宙を漂う小さな船は、燃料の乏しい今、もしエネルギー切れになった非常時の行動が命取りだ。
パイロットである3人の体力は温存すべき、まさに正論だとAは納得した。
「そうそう、落ち着いて落ち着いて」
Cの落ち着いた声とは違い、Bの声はどこか楽天的なメロディを奏でながら狭い機内の中で響いた。
船長であるBは、ちらりとモニターと嵌め殺しの窓枠の外を順番に見遣る。
「大丈夫、大丈夫。ボクに任せてよ」
そう口にしながら、危機的状況はAやCよりも十分に理解していた。整った美形のBの表情はぴくりとも動じない。
船の窓の外に広がるのは、無限の闇。
沈黙の黒に吸い込まれそうだ。
あのブラックホールに飲み込まれたらどうなるんだろう、と不謹慎にもBの心は踊る。
制限時間があるからこそ、燃えるのだ。
残り少しのエンジンと、鬼気迫るタイムリミットに、パイロットBは鼻歌を歌った。
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