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目標の座標点へ運行を続ける船は、ゆらゆらと虹色に発光するオーロラの波を何度か潜り抜けた。
遥かとおく、出発した星はもう見当たらない。
もう戻れない宇宙船を、ピンクからオレンジ、黄緑、スカイブルーへとグラデーションを描く光のリボンが見送っている。
3人のパイロットは、軌道から外れないように発進続ける。
この宇宙の理を守るため。
陽気なハミングがBの操縦席から漏れる。若い頃に、ティーンエイジャーだった頃にAもCも夢中になったロックナンバー。
「場違いだなぁ、まったく」
Bが暢気にさえずるのは、ロックに相応しい破滅的な歌詞が並ぶ。
この船が少しでも軌道から逸れれば、AもBもCも先はない。
間近でぱっくりと口を開けて、ブラックホールが捕らえようと控えている。
「いいんじゃない? こんな時だからさ」
普段は寡黙なCが、Bの鼻歌に同意する。そして同じメロディを澄んだ声で重ねた。
「……それもそうだな」
慌てふためいていたAも、だんだんと2人の奏でる歌に高揚し、同じく旋律をハモリ始めた。
無限のブラックホールから見れば、鉄屑に過ぎない。船内には旧き良きポップなロックソングが充満した。
「大丈夫。絶対に、任務は果たすから」
ボクが車の運転が上手いのは知ってるでしょ、と付け加える船長Bの冗談は、歌いながらも、ひとつだけ輝く1等星のように、闇を鋭く刺しこんだ。
絶対に生きて還るのだ。
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