パイロット達の悲劇 *2月*【コンテスト参加・負けられない戦い】

3/5
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 目標の座標点へ運行を続ける船は、ゆらゆらと虹色に発光するオーロラの波を何度か潜り抜けた。  遥かとおく、出発した星はもう見当たらない。  もう戻れない宇宙船を、ピンクからオレンジ、黄緑、スカイブルーへとグラデーションを描く光のリボンが見送っている。  3人のパイロットは、軌道から外れないように発進続ける。  この宇宙の(ルール)を守るため。  陽気なハミングがBの操縦席から漏れる。若い頃に、ティーンエイジャーだった頃にAもCも夢中になったロックナンバー。 「場違いだなぁ、まったく」  Bが暢気にさえずるのは、ロックに相応しい破滅的な歌詞が並ぶ。  この船が少しでも軌道から逸れれば、AもBもCも先はない。  間近でぱっくりと口を開けて、ブラックホールが捕らえようと控えている。 「いいんじゃない? こんな時だからさ」  普段は寡黙なCが、Bの鼻歌に同意する。そして同じメロディを澄んだ声で重ねた。 「……それもそうだな」  慌てふためいていたAも、だんだんと2人の奏でる歌に高揚し、同じく旋律をハモリ始めた。  無限のブラックホールから見れば、鉄屑に過ぎない。船内には旧き良きポップなロックソングが充満した。 「大丈夫。絶対に、任務(ミッション)は果たすから」  ボクが車の運転が上手いのは知ってるでしょ、と付け加える船長Bの冗談は、歌いながらも、ひとつだけ輝く1等星のように、闇を鋭く刺しこんだ。  絶対に生きて還るのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!