パイロット達の悲劇 *2月*【コンテスト参加・負けられない戦い】

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 制限時間あと3分に迫ると、船内に声が飛び交う。 「間に合う?!」  Aが痩せた体を伸ばしながら、焦って叫ぶ。 「大丈夫」  Bは、生死を賭けた今を、変わらず愉快な声で返す。瞳は真剣だ。 「このペースで大丈夫なんだよね」  Cは操縦のサポートに徹し、冷静に確認する。 「……全く。毎回毎回、こんな任務(ミッション)を繰り返すのも楽じゃないよね」  あと30秒後に、この船の行方が決まる臨終で、やれやれとBはAとCに向けて苦笑いした。 「いつだっけ? 何とかって王様が調整するのに気付いてくれたけど、結局ずれてたっていう」  曖昧な返答をするAにすかさず、Cは 「ユリウスだっけ?」  間髪入れずにBが訂正を入れる。 「王様じゃなくてエンペラーだね。……1280年で10日ずれるからね。そのせいで、その頃は大変だったんじゃない? 畑で働かされる日数増えたりさ」 「そうやって地球の暦がずれると、問題があるもんな」  口調は焦りつつも呼応するAに、 「だからこそ、俺達が今こうしてる」  勇ましく断言するCに、Bは切迫した目元を嬉しそうにゆっくりと弛めた。  残り3秒。 「大丈夫、間に合う…!!!」  ブラックホールの手のひらが、パイロット達を乗せた小舟覆い被そうとした時、Bの言葉が、宇宙(そら)いっぱいに反響した。    そして、次の瞬間、生まれたばかりの星のように宇宙船はキラキラと光を放って、七色の帯をたなびかせると、そして消えた。  * * * * *  太陽の周りを規則通り運行する青い惑星は、パイロット3人の計画通りに、目標地点を通過した。  2月29日。  4年に一度、地球の公転1周分を補う日。    慌てん坊の秒針を操る、パイロットA。  じっくりと時針を司る、パイロットC。  そして、閏年を調整するために時間をコントロールするための船長。  リズミカルに分針を操る、パイロットB。  宇宙の片隅で、時の流れを調整する3人のことを、誰も知らない。
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