無自覚な恋情

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『もしもし、秋夜か?』  苗字の”北条”ではなく、いきなり名前で呼ばれてドキリと心臓が跳ね上がる。 「お、おう……」 『良かった。ちゃんと架ったな』  電話越しにでも分かるような、にこやかな感じの声音が更に心拍数を加速させる。 『別に用事はねんだけどさ。寝る前にお前の声が聞きたくなった』 「あ、ああ……そう……」 『ま、ちゃんと架かるか確認がてらな』  少し照れたような調子で、楽しそうに言っては笑う。きっとまた例の”はにかんだ”表情でいるのだろう。そんな想像を浮かべながら、秋夜もまた自然と笑みがこぼれるまま、素直な言葉を口にしていた。 「んだよ。さっき一緒に帰ったばっかだってのによ」  クスっと笑いと共に楽しげな感情が声に出る。 『だよな。じゃあ、また明日な。朝も迎えに寄るから、先に行ったりすんなよ?』 「ああ、分かってるって。てめえもあんま無理すんなよ? 来れねえ時は全然構わねえんだからさ」 『ああ。そん時はちゃんと電話すっから。じゃ、夜分にすまなかったな』 「お、おう……。んと……ゆっくり寝ろよな」 『ん、お前もな』 「そんじゃな」 『ああ。――秋夜、おやすみな』 「お、おう……! ……おやすみ」  通話を切りながら、鎮まらない胸の高鳴りに昨夜とは別の意味で苦しくなる。
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