無自覚な恋情

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 いつもは必ず門塀に背をもたれている姿が見当たらない。その事実を目の当たりにした瞬間に、秋夜は自覚のないまま蒼白となっていった。心臓を鷲掴みにされたように苦しくなり、バクバクと心拍数が速くなっていく。  どういうわけか、次第に膝までが笑い出し、気をしっかり持っていないとフラついてしまいそうになる。  真夏がいない。真夏が自分を待っていない。迎えに来ていない。ただそれだけのことで、目の前が真っ白になりそうだ。いつもだったらウザがろうが、どんなに突き放そうが、迎えにやって来ないことなど皆無だったというのに。秋夜にとってはたったそれだけのことで衝撃を受けている自分自身の方がとんでもなく驚愕だった。 「……別に……どーでもいーだろ。あの野郎にだって都合ってもんがあるだろうし。それに――正直、毎日毎日うぜえと思ってたし、ちょうどいいじゃねえの」  目一杯強がってはみたものの、少しでも気を許せば声が上ずりそうだ。秋夜はそんな自分を奮い立たせるように、わざと粋がった仕草で肩に鞄を担ぎ上げると、一歩一歩を踏みしめながら必死に平静を保とうとしていた。  そんな折だ。 「北条――」  後方から聞き慣れた声がそう呼んだ。
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