無自覚な恋情

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「て、てめえにゃいつも世話かけてっから……」  相も変わらずぶっきらぼうな物言いしかできずに、だがそれとは裏腹に頬を朱に染めながら視線を泳がせた秋夜に、 「それじゃ遠慮なく借りてくわ。サンキュな、北条」  やわらかな声がそう囁き、踵を返した大きな背中が去って行った。  それから間もなくして、雨足はあっという間に強くなっていった。ザーザーと音を立てて屋根を叩き付けるような土砂降りだ。  部屋の窓からその様子を見つめながら、秋夜は未だドキドキと心拍数のおさまらない胸を鎮めるように、無意識のまま拳を当てていた。  やはり傘を貸すだけじゃなく、雨宿りがてら部屋に上げて茶の一杯も出した方がよかっただろうか。そんな思いが込み上げる。 「あの野郎、無事に家に着いたのかよ……」  急な土砂降りで風邪など引かなければいいが――。  状況を知りたくとも、今更ながら互いの連絡先も交換していないことに気付かされる。 「……ったく! 携番くらい訊いときゃよかったのか……」  二ヶ月も共に下校しながら、本当に何の進展もないことに歯痒い思いでいっぱいになる。 「源……真夏か……」  またもや無意識にその名を口にすれば、甘苦しい想いにキュッと胸が締め付けられた。
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