159人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ、どうなんだって!」
「黙ってねえで何とか言えってのよ!」
罵倒と共に頭を小突かれそうになり、咄嗟に学生鞄でその手を振り払った。
「……ッにしやがる、てめえ!」
「ナメてんじゃねえぞ、ぐぉらッ!」
いわば多勢に無勢だ。気が大きくなっているわけか、川東の学生らは大袈裟に肩を鳴らして凄み掛かった。だが、秋夜は尻込むわけでもなく、かといって凄み返すでもなく、うっとうしいとばかりに冷淡とも思えるような視線で彼らを一瞥した。そして、無言のままそこを退けとばかりに歩き出す。――が、今度はいきなり胸倉を掴み上げられ、
「シカトこいてんじゃねえよ、このクソがッ! 何ならここで畳んでやってもいんだぜ!?」
そのまま後方へと突き飛ばされた。
「何せあの斉天大聖を倒したってんだからよ! てめえ、強えんだろ?」
斉天大聖というのは、言わずもがな番格勝負で対戦相手だった桃陵学園の源真夏のことだ。彼は桃陵のみならず周辺高校の不良連中からも腕の達つことで名を馳せているのは事実で、そんな大層な通り名が広く定着しているのだ。無論、秋夜ら四天の仲間内でも真夏の噂は周知のことだった。だが、秋夜とてその真夏に引けを取らない実力を認められているのも本当のところで、だから番格勝負の行方は誰もが気に掛ける大催事であったことに違いはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!