甲板の上で

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甲板の上で

荒れ狂う大海原で、今にも沈みかけようとする豪華客船【イ・セリア・クイーンスター号】。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「(いつき)くん!もう時間がない!せめて君と娘たちだけでも…うぉ!?」 【イ・セリア・クイーンスター号】が遂に傾き始める。 「だ、大丈夫ですかっ!教授っ!」 「あ、あぁ大丈夫だ!そんな事より早く救命ボート乗り場へ急ぎなさい!」 「で、でも…」 「君はまだ若い!その若い命を今此処で摘み取られるわけにはいかないんだ! だから早くっ!娘たちを連れて早くボート乗り場へ!」 樹と呼ばれた赤髪の男性(おとこ)は5歳と7歳になる二人の女の子の手を取り、教授の妻の元と歩み寄る。 「あぁ、私の可愛い一花(いちか)といつか…二人とも私によぉく顔を見せてちょうだい……」 教授の妻は愛しい我が子二人の頬を優しく撫で、そして抱き締める。 「二人ともいい?あなた達にお願いがあるの…」 「なぁにお母様?」と、5歳の女の子が返事をする。 「私とお父様はこれから行かなくちゃいけない所があるの…だからね…二人に、一花といつかに二三(ふみ)の面倒を頼みたいの…お願いできるかしら?」 「えぇ~!じゃあ、いっちゃんも一緒に行く~!」 「ごめんねいつか…一緒に連れてってあげられないの……」 「やだやだぁ!いっちゃんも一緒に行くもん!」 泣きじゃくる5歳の女の子と違い、7歳の女の子は、 「大丈夫お母様!私が…私がいつかと二三の面倒をちゃんと見るから心配しないで!」と、7歳の女の子だって本当は泣きじゃくりたい筈なのに・・・そんな感情を圧し殺しながら逞しく言い放った。 「ありがとう一花…あなたがお姉ちゃんでお母様…本当に嬉しいわ」 「奥様!もう時間がありません!」 赤髪の男性(おとこ)のその言葉で教授の妻は2歳の女の子を男性(おとこ)に差し出す。すると男性(おとこ)は泣きじゃくる5歳の女の子の手を取ると、7歳の女の子と共に救命ボート乗り場へと駆け出すのであった・・・。
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