0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ここは私が
約束の9時迄あと10分。
私は脳内CPUフル回転させた。
サイフが無い。多分昨日着てたスーツの内ポケットだ。カード類もサイフに。電子マネー、電子決済に懐疑的な私はスマホに関連のアプリ入れてない。つまり、ここの喫茶料金払う方法は無い。
あと10分弱で得意先担当部長が来られる。打ち合わせの資料・準備は万全だ。それに注力するあまりサイフ忘れるくらい考え抜いた。逆に言えば、いつもの担当者の代わりに急遽部長さんと打ち合わせという事態に軽パニック、サイフ忘れ朝イチで打ち合わせの喫茶店のカネ払えない大ピンチだ。
色々な状況鑑み「サイフ忘れました」は死んでも言えない。が。
唯一の希望は、先方が年齢も役職も格上である事。
恐らく「ここはいいよ」と払おうとされるだろう。だが、まさか「じゃ、宜しく!」と言うわけにはいかない。
「いやいや、とんでもありません。ここは私が」「いいからいいから」「いやいやいや」。
伝票の奪い合いの末、止むなく格上部長の顔立てて引き下がる。という型にしなければ。よし!これで行くしかない。
イメージトレーニングするうち部長が入って来られた。
……………………………………………………………………………
「じゃ2日以内に連絡するよ」「宜しくお願い致します」
私のわざとゆっくり伸ばす手より早く部長が伝票を掴む。
「いいよ」「え?いやいや、そういう訳には」「いいから」「でも」「い・い・の!」「ええ〜!困るなあ。ちょっと…ええ?そうですかぁ」
部長が支払いをし店出たとこで挨拶、右左に別れた。暫く深く礼をしたまま上目に見送り、後姿見えなくなった途端膝に来た。
汗びっしょりで道端にしゃがみ込み、大きく息を吐いた。
「勝った」
気づくと少し涙ぐんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!