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___1年後。学園祭ステージ。
歓声が体育館を包む。暗幕の隙間から見る観客席は、1年前よりも観客が増えた。新入生も、卒業生も、離任した先生たちも、みんな私たちが歩んできたこの軌跡の最後を見届けに来てくれたのだ。
___あの学園祭の後、ステージ上で倒れた蒼は病院に運ばれたが、一度も目を覚まさないまま息を引き取った。私たちが聞いていたよりも病状は悪化していて、宣告されていた余命も過ぎていたらしい。蒼が亡くなった後はバンドの解散も危ぶまれたけれど、誰一人として実際に解散という言葉を出すことは無かった。むしろ次のボーカルは誰がやるのか、来年の学園祭にやる曲は何がいいかと前向きだった。結局3人からの推薦で私がボーカルになった。自分の声が嫌いで、いつの間にか歌うことを辞めてしまった私が再び歌う日が来るなど、思ってもいなかった。
このマイクを前に何度も歌ってきた蒼の姿を思い出して、今度は私が歌う。聞いていてね、蒼。私たちは5人でRe:futuresだから。
「それでは、Re:futuresの皆さん、お願いします!」
幕が上がる。歓声が一段と大きくなる。みんなの視線が私たちに集まるのが分かる。やっぱり、マイクを前にすると緊張の度合いが全然違う。ずっとこれをやってきた蒼は本当にすごいや。
「大丈夫だよ、翠。」
「俺たちを信じろ。」
「みんなここにいるよ。」
背後から投げかけられる温かい言葉。自然と心が落ち着いて、目の前の景色が輝いて見える。大きく息を吸って、私は何度も聞いたあのフレーズをなぞった。
「……皆さんこんにちは!私たちはRe:futuresです!まずはメンバー紹介をから!」
「ベース担当、普段は優しい学級委員!真面目系ベーシスト、五香黄月!」
「キーボード担当、双子の兄と一緒にクラスを盛り上げるムードメーカー!ワイワイ系キーボード奏者、五香緋奈乃!」
「ドラム担当、天然だが刻むリズムはズレなしで完璧!不思議系ドラマー、戸枝紫音!」
「そして私、ギターボーカル担当、縁の下の力持ち、努力家ギタリスト、桐原翠。そしてもう1人。遠い場所へ行ってしまったボーカル、粂川蒼。この5人でバンド活動をしています!」
蒼の名前でしんみりとした空気が流れる観客席。こうなることは予想していた。今やるべきことは分かっている。同じバンド仲間である私たちが誰よりも笑顔で盛り上げるのみ。
「……姿は見えなくても、私たちは5人でRe:futuresです!高校生活最後のステージ全力で演奏するので、応援よろしくお願いします!」
「特に3年の奴ら!ずっと俺らの演奏見てきたんだから、盛り上げ方分かってるよな!頼むぞ!」
「みんなで最高の思い出を作ろう!絶対に損はさせないからさっ!♪」
「頑張ろ~」
クラスメイトを中心に湧き上がる観客席。そうだ。私たちは一人じゃない。ステージに立っている人も、観客席にいる人も、舞台裏で動いてくれている音響や照明の人たちも、みんなでステージを作るのだ。
「___それでは、一曲目。私たちの初めて演奏した曲になります。聞いてください、『God Knows...』!」
形が変わっても、私たちの積み上げてきた思い出は変わらない。大好きな仲間たちと一緒に、また新しいページを刻んでいく。
私ついていくよ。どんな辛い世界の闇の中でさえ。
独りじゃないと否定出来るように、明日も唄うんだ。
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