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「今、流行(はやり)のアールデコか?」 「いかにも!この女性のような丸みを帯びた形が、また何とも洒落ているだろう?」 「ハンッ、俺にはヴァイオリンにしか見えないね」  冷たくあしらうかのように言い放って、欣二は視線を落とした。オイルライターと同じ黄金色の液体が入ったグラスを見つめ、それを左手で掴んだかと思うと勢い良く持ち上げてあっという間に飲み干した。そうしてすぐ空になったグラスに手酌(てじゃく)()いで、への字に曲げた口にまたグラスを押し当てる。  終始不満そうな様子の彼を、正太郎はあっけらかんとした顔で暫く眺めて、近くを通った女給(じょきゅう)を呼び止めた。 「君、ビイルを一本頼むよ。それと彼に何か……そうだな、ビフテキでも」 「おい、正太郎!俺はそんなもの要らない」  欣二の声に一度振り向いて、再び女給に目をやる。 「まあ、いいから。それを」  チップを渡し、彼女の赤い帯を押すようにして奥へと追いやった。 「まあ、いいじゃないか、欣二。ここは僕が」  正太郎は得意げにそう言いながら、(ふところ)から黒革のがま口財布を取り出し、そこから聖徳太子の描かれた百圓(ひゃくえん)紙幣をちらつかせた。 「どうしたんだ?そんな大金……」 「まあね」  鼻を擦ってにんまりと笑う。 「どうせ、(ろく)な稼ぎ方じゃないだろう?」  それにまた笑う。 「いやあ」  紙幣を懐にしまったところでビール瓶とグラスが一つ置かれた。 「おっと、自分でやるよ」  グラスに注ごうとする女給の手を止めて、その瓶を奪うように掴んだ。 「はあ」  気の抜けたような声を一つ漏らし、女は軽く頭を下げて去って行く。正太郎はその背中を注意深く見ながら口を開いた。 「まったく、若ければいいってもんでもないだろうに。あぶなっかしい手つきで注がれちゃ、泡だらけになってたまらん」
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