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 不平口でそう呟き、酒を注ごうとグラスを手にした。 「俺でよけりゃ、注ぐが……」  欣二の顔を一度見て頷く。 「それじゃあ……」  瓶を欣二に差し出すと彼はそれを左手で掴み、ゆっくりとグラスに注いだ。これは好機と言わんばかりに正太郎は口火を切る。 「で、さっきの金の話だが……前々から出入りしていた屋敷があるんだが」 「屋敷?」 「ああ。今まで美術品を買い漁っていた、とある有名な収集家の主が突然僕の元にやって来てね、絵画を並べていくらでも構わないから金に換えて欲しいって言うんだ。何、こんなご時世だろ?だから少しでも銭を手元に置きたいって考えるのは当たり前なことさ」 「……それで、それを買ったのか?」 「そうなんだよ。何だか知らないが、富岡正太郎の目は誤魔化せないって彼らの間で言われているらしくってね、評判がいいらしいんだ」  ハハハ、と甲高(かんだか)く笑って正太郎はビールを呷る。 「それだけじゃない。(こぞ)って皆僕のところに来るもんだから、こちらも、今はそうそう売れない時代だから、とか何とか言っていい物を安く沢山買い込んでね……」 「で、高く売り(さば)いたのか」 「ご名答!」  高々と声を張る正太郎とは対照的に、欣二は軽く数回頷いただけだった。それでも僅かに右の口端を上げて話を聞いていた……かと思うと、彼は不意に渋い表情を見せた。 「じゃあ何か。君は俺に、その自慢をしに来たわけか」 「君……人がこう、せっかくの気分だっていうのに……これも付き合いのうちじゃないか」 「君と違って、俺は金がない」  その一言に正太郎は大口を開けて笑う。 「冗談もいいところだ、君は自分の描いた絵があるじゃないか!」 「絵は全部売った……」 「また描けばいいだろう?あれか、あまりいい値がつかないってんなら、僕が捌いてやってもいい」
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