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解錠されるのを待って、そのまま助手席に乗ろうとしたところで、西澤に止められた。
「あ、うしろ、うしろ」
「うしろ?」
「そう。広報としても、これから我が研究所を大々的に宣伝してもらおうっていう大切な人だから、こっちに座ってください。安全のためにもね」
そう言いながら西澤は運転席のうしろのドアを啓子のために開けてくれた。運転が荒いのだろうかと少し身構えた。
郊外に大きな敷地を持つ研究所からテレビ局のある県の中心地までは1時間近くかかる。その間、啓子と西澤のあいだで、会話が途切れることはほとんどなかった。
同年代だからお互いの部署に何人かは知っている人間もいる。ああ、あの人、というような話題がほとんどだったが、話すうちに啓子は、さすが広報だなと感服することが幾度もあった。研究者同士ならこうはいかない。そっちの培養はどう、ああ、うまくいってる、で沈黙が続いても不思議はない。日頃接することの少ない職種の相手なので、多少いつもより饒舌になっていることも自覚していた。
そしてこれは生まれて初めてのテレビ出演直前としてはいいことなのかもしれないと、啓子は思った。いつもより少々ハイになっておいたほうがいいはずだ。
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