白怜

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 テーブルにある菓子入れから飴を取り器用に袋を開け、口に入れようとしたが何を思ったのか彼女はそれを袋の上に置いた。 「…ボスの命令通り君の両親を殺して、ついでに金目のものを盗ろうとしたんだけどね」  彼女の切れ長の目が細く尖った。顔の右半分は前髪で隠されている。僕はその右半分の顔を無性に見たくなった。 「地下のあれ、あなたがやったの?」  牢獄のように檻で囲われている部屋の事だろうか。もとは精神病患者を入れるための部屋だったらしいが、今では僕のコレクションルームだ。僕が頷くと彼女は鼻を鳴らした。 「今日、誰か殺す予定だったの?」 「予定はありません。ただの運試しです」  彼女は眉を寄せて僕を蔑視した。そんな姿も僕には美しく見える。 「…あなたを殺してここを去ればメディアが騒ぐ。だからあなたを連れてうちで雇うつもりだけど…ボス次第ね」 「…わかりました」  やけに大人しい僕を彼女は警戒していた。彼女の携帯電話から規則的な音が鳴り、少し経って彼女が出る。通話中でも彼女は拳銃と顔をこちらに向けていた。  僕について何か話しているようだが、この距離ですら聞き取りづらい。時折首を振る動作が入り、やがて彼女は無表情で電話を切った。 「5分後に車が来る。それまでは待機よ」 「そのあとは…?どうなるんですか」 「良くて使い捨ての駒」 「もしダメだったら…あなたが僕を殺すんですか」 「私はしないわ」 「えっ…なんで」 「そういうのは解体屋の仕事なの」  僕はここで初めてゾッとした。彼女に殺されて良いと思ったから帰宅し、無抵抗で彼女に従った。通話中も我慢した。  ここで死ななければ、あるいはここで彼女を殺さなければ僕は彼女にとって風でしかなくなる。そう思うとつい力を入れてしまい、肩の傷が大きく脈打った。 「…なんなの、あなた」  彼女は僕を見て眉を寄せた。その顔を見ていると僕の脈が早くなった。
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